ノスフェラトゥ(2024年版)
「吸血鬼ノスフェラトゥ」は、1922年のサイレント映画の世界最初の吸血鬼映画であり、F・W・ムルナウ監督の傑作といわれています。とにかく、吸血鬼のオルロック伯爵を演じたマックス・シュレックの禿げ頭で長い爪の異様な姿が有名です。この作品は、ブラム・ストーカーの小説「吸血鬼ドラキュラ」が原作なのですが、遺族の反対で”ドラキュラ”の名前が使えなかったそうですが、不死者(ノスフェラトゥ)というのは、やっぱりインパクトが強かったようで、その後、何度も再映画化されています。
このサイレント映画のオリジナルについては、もちろん私もDVDで観ていますが、やはり、サイレント映画特有の大げさな演技や画像の悪さであんまり面白くないのです。
ところが、2020年になって最新の技術で復元された2Kリマスタードイツ語オリジナル版が、この6月にブルーレイ「ノスフェラトゥ/恐怖の交響楽」として発売されました。謳い文句は、”その映像美とち密な空間構成、計算された光と影の視覚効果は、一世紀を経てなお見るものを驚嘆させるだろう”というものでしたので、早速購入したのですが、確かに、映像は昔のバージョンからは比較にならないほど鮮明になっています。
ただ、やっぱりサイレント映画特有の大げさな演技が私には意味不明でなんとも観るに耐えられないのでした。もっとも、そうした演技がオルロック伯爵には効果的だったのかもしれません。いまでも、そのフィギュアが生産されるほど、インパクトはあります。まあ、本来は、昭和の黄金時代の東宝怪獣映画のように、歴史的な視点を持って、その作品を鑑賞するのが礼儀なのでしょうが、思い入れが無いとなかなかそうはまいりませんね(笑)。
さて、このサイレントの伝説の映画を2024年に再映画化したのが、ロバート・エガース監督の「ノスフェラトゥ」です。出演者も豪華です。主演のオルロック伯爵を「IT/イット ”それ”が見えたら、終わり。」のピエロ”ペニーワイズ”を演じたビル・スカルスガルド、ヒロインをモデル出身のリリー=ローズ・デップ、その夫をニコラス・ホルト、この人は「レンフィールド」(当ブログ2025.3.25参照)でドラキュラの召使を演じていました(笑)、そして、フォン・フランツ教授を名優ウィレム・デフォーが演じました。なお、この作品は、アカデミー賞で撮影賞、美術賞、衣装デザイン賞、メイクアップ&ヘアスタイリング賞の4部門にノミネートされていますので、凄く期待していたのです。
残念ながら、この映画は私の地方では劇場公開がされなかったので、先日発売されたブルーレイを入手してやっと観ることができました。
まず、なにより驚いたのは、オリジナルの世界を、当時の街並みから家の調度品や衣装まで、物凄く丁寧にリアルに、まるで臭いまで感じられるような不衛生な社会を再現していることです。これには一寸感動しました。確かに、アカデミー賞にノミネートされるだけのことがあると感心しましたし、ハリウッドの力を再認識しますねえ。こういった昔の時代をリアルに作りだすのは、さすがです。
さらに、ヒロインを演じた女優さんにも驚愕です。宗教画に出て来そうな奇妙な髪形のヘアメイクや衣装も見事ですが、なによりオルロック伯爵に呪われる演技が凄すぎます。白眼やベロ(舌というよりこの表現がぴったり)を口から垂れ下げ、痙攣する姿はエクソシスト張りです。特殊メイクでない分(多分?)、迫力が違います。精神を病んでいく姿は壮絶です。最初美人だと思っていた容貌の印象が一転するほどです。この女優根性は見事です。
それにしても、彼女を善意から支援した友人夫婦と娘たちは可哀想でしたねえ。眠らされた夫には救いがありませんし、途中から登場するウイリアム・ デフォー演じる、オカルトや心霊術研究で学会を追われた変人教授は、結局なんの役に立ちませんでした。それにしても、デフォーが画面でかなり背が低く見えるのには、かなり戸惑いましたねえ。なんらかの演出意図があるのかな。それとも身長が単に低いだけ?
ところで、この映画で一番興味があったのが、ビル・スカルスガルドが演じるオルロック伯爵のビジュアルです。なにしろ、先日観たドラキュラ映画「ドラキュラ/デメテル号最後の航海」(当ブログ2024.7.13参照)では、本家ドラキュラがCGを駆使して”ノスフェラトウ”の進化型のモンスターになっていたので、「IT」であれだけの恐怖のピエロを生み出した役者には、大いに期待していたのです。
映画序盤は、画面が暗くてオルロックの姿形がよくわかりませんでした。なにしろ、指の影ばかりが伸びていくシーンが続き、なかなか姿形を見せないのです(笑)。
そして、やっとその姿がはっきり映し出されたときは、少なからずガッカリしましたねえ。コサック刈りで口髯を生やした大男だったのです。うん、当時のトランシルバニアなどの風俗や文化からリアルさを追求したのでしょうが、まったくモンスター感がありません。アカデミー賞がノミネートで終わった理由が分かりました。観客は、奇怪なモンスターを望んでいたのだ(笑)。
でも、まあ、ペストが流行った当時の時代をリアルに再現した映像は見事で、自宅でブルーレイの早回しも一時停止もせずに、最後まで鑑賞できましたので、それは一応面白かったというべきでしょう。
なにしろ、「ノスフェラトゥ」の再映画化では、1979年に、はまり役と言われた怪優クラウス・キンスキーを主演に、ヴェルナー・ヘルツォーク監督の作品があるのですが、適役すぎたのか、なんとも退屈でそうそうにDVDを早回しにした苦い経験もあるのだ(笑)。
やっぱり、吸血鬼映画は、クリストファー・リーがドラキュラを演じるハマー映画のシリーズが一番です。




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