血槍富士
久しぶりに内田吐夢監督の1955年公開の名作「血槍富士」を観ました。丁度、安売り中のDVDをネットで購入したのです。この作品は、東映お決まりのチャンチャンバラバラの舞踏のような殺陣ではなく、技も何も知らない”下郎”が主君の仇を討つために、力任せに槍を振り回す最後の大立ち回りが有名です。
しかし、今回改めて思ったのは、いまや失われた日本の田畑や街道などの原風景が見事に映像として記録されていることをはじめ、宿屋の大部屋などのセットが実にリアルに見えること、さらには演じている役者さん達の立ち居振る舞いがあたかも当時の庶民を再現したかのような姿に見えることに感心しました。
物語は、酒を飲まなければ心優しい武士のご主人様と槍持ちと荷物持ちの2人の下郎が江戸に向かう道中で、それぞれの事情を抱えた人間模様が淡々と描かれます。盗人騒ぎや身売りなどのエピソードが徐々に明かされるものの、実にのんびりとしたコミカルな雰囲気です。あんな富士山の書割を背景にした大名行列のてんやわんやのシーンがあったのですねえ、すっかり忘れていました(笑)。内田監督としては封建社会の身分制度を揶揄しているのでしょうねえ。
また、演じる登場人物についても、”下郎”役の片岡千恵蔵は、あの顔の大きさと体躯の存在感がなんとも適役に思えます。それに、ご主人様も、素面と酒乱ぶりの落差は、チャップリン映画で観た登場人物のようでもあります(笑)。加えてもう一人の荷物持ちの”下郎”を演じる名優の加東大介はさすがですし、吉田義男や新藤英太郎などの東映専属俳優たちもそれぞれ柄に合った役をしっかり演じています。そして、名前は知りませんが、旅芸人の親子、一人で逞しく生きている孤児、”鼻が笑っている”3人の商人が実に良い味を出しています。
結果としては、DVDで1時間35分を一気に観てしまいました。家庭内で早回しなどせずに鑑賞できるのは、やはり名作の名作たる所以ですよねえ。ただ、最後の立ち回りは、後年の作品のように斬る音や突き刺さることもなく、今となってはもの足りない気もしますが、酒樽の酒が流れ出て泥だらけになった地面で転げまわりながら戦う姿は、当時としては、画期的な演出だったのでしょう。未見の方は、是非、歴史的な評価を考慮しつつご覧ください。




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