室町無頼
映画「室町無頼」は、これまであまり映画で描かれなかった室町幕府末期を舞台にした時代劇だそうで、直木賞作家の同名の原作を映画化したということらしい。この映画を観る前に一番気になっていたのが主演俳優が大泉洋であることでした。最近は、さまざまな映画の主演も務めているのですが、正直あまり見ていなかった私などはやっぱりテレビのバラエティ番組等でのタレントというイメージがぬぐい切れず、時代劇のヒーローにふさわしいのかという疑問がありました。
ところが、開幕早々、貧民が飢餓に苦しむ凄惨な京都の河原に登場する”蓮田兵衛”の姿は、”用心棒”三船敏郎を彷彿させるといったら、大げさかもしれませんが、実にカッコイイのです。いやあ、大泉洋さんの実力を再確認させていただきました。ちなみに、パンフレットによると、刀を常時帯刀することも含め、かなり殺陣の練習をこなしたようで、実に佇まいが良いのです。かつての東映時代劇のキンキラとは違い、衣装とかつら(いまは、ヘアメイクディレクターと美粧というらしい)もリアルで感心します。彩度を落とした映像もその効果を押し上げているのかもしれません。
そして、蓮田兵衛のライバルである”骨皮道賢”(実在の人物らしい)を演じる堤真一も素晴らしい。まず、黒ずくめの鎖帷子を縫い込んだ衣装が気に入りました。なんせ応仁の乱の前ですから、平安朝の衣装も踏まえて、なんともかっこいい。そして、幼馴染で一揆をおこす兵衛と相対する洛中取締役の立場は、”椿三十郎”の仲代達矢を思い出します。三十郎に一目ぼれして信頼して最後は裏切られる室戸半兵衛の可哀想な役柄まで似ています。道賢としたら兵衛の行動は”お前は酷い奴だ”ですよねえ(笑)。
さらに、道賢の元カノで、兵衛の彼女の遊女”芳王子(ほおうじ)”役の松本若菜に一目惚れです。正直、まったく名前も知りませんでしたが、なんとも、菩薩様のような(?)熟女の色気が満ち溢れており、年寄りの煩悩が呼び起こされます(笑)。こんな美人がいたのか、思ったくらいですから、多分やっぱり化粧と照明などの映像の力の相乗効果もあるでしょう。これを機会に、皆さんで女優松本若菜さんを応援しましょう(笑)。
一方、残念だったのが、北村一輝演じる悪大名”名和好臣”ですねえ。もっと極悪非道ぶりを期待していたのですが・・・。弓を外しちゃいかんねえ(笑)。”カエル”役の若手俳優も頑張っており、特に、最後のオチ(笑)には感心しましたが、なんかセリフに違和感があって今後に期待しましょう。
さて、時代劇のかなめである殺陣については、迫力はあるものの、少し型にはまったような気がしたほか、大掛かりな一揆のアクションも群衆の乱闘はかなり頑張って見応えもありますが、焼き討ちシーンで焼く筈の証文をばらまいているのは意味不明でした(笑)。焼け残った証文が拾われて後日証拠になるのではないか、と貧乏性の私などは気になって仕方がありませんでした(笑)。あと、一揆の大立ち回りで兵衛と道賢が戦っていたはずがいつの間にか別のところに居る等、編集の手違いか、とも思える場面もあったほか、最後の決闘は全編きちんと真正面から見せてほしかった、というのが欠点といえば欠点ですねえ。
後、気になるのが、ロケ地の美術などは実にリアルなのですが、掘立て小屋などのセットになると、とたんに安っぽく、生活感が全くないのが、いかにも昔ながらの東映調でいただけません。当時、あんな機械で製材したような均一の板や柱はないと思うのですが、いかがでしょうか。曲がりくねった自然材や焼き入れをもっと徹底的に施してほしいものです。まあ、予算がないのは分かりますが、リアルさは細部に宿りますから、是非、手間をかけてほしいと思います。
以上、個人的に好きなジャンルの時代劇ということで、いろいろ細かな点から辛口の意見を並べ立てましたが、映画全体としては、面白く、十分楽しめました。
ここのところ、本格的な時代劇や異色作が東映で立て続けに製作、公開されており、作品の質も良く、時代劇ファンとしては実にうれしいことであり、今後とも時代劇の火を消すことなく頑張ってほしいものです。
最後に、私の住む地域では劇場パンフレットが早々に売り切れ状態となっており、このジャンルのファンである高齢者層の購買意欲をもう少し事前にリサーチして販売量を確保してほしいものです。結局、オークションで購入せざるを得ませんでしたねえ。ちなみに、パンフの表紙は、白地に黒の題字のみですが、武田双雲の見事な文字でした。・・余談でした。
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