十一人の賊軍
映画「十一人の賊軍」は、かつて東映が時代劇黄金期の末期に「十三人の刺客」をはじめとする「十一人の侍」や「十七人の忍者」などの集団抗争時代劇を製作していた頃、後に「仁義なき戦い」で名を成す脚本家笠原和夫氏が書いた脚本のプロット16ページを基に製作されたそうです。ネットによると、脚本自体は、当時の東映プロデューサーからボツを喰らったため、本人が破り捨てたそうで残っていないとのことです。そして、この幻の作品を映画化しようとしたのが、東映のやくざ映画の実録路線「仁義なき戦い」を承継したような「孤狼の血」等で評価の高い白石和▢監督であり、脚本も同作のコンビである池上純哉氏です。
正直、東映の集団抗争時代劇は、「十三人の刺客」は別格(オリジナル作品のことです。)としても、その他の作品は話にあまりにも救いがなくて、現在の年令からは少しきついかなあ(ちなみに「弧狼の血」も未見です。)と思っておりましたが、前作「碁盤斬り」が丁寧な”時代劇”になっていましたので、劇場に足を運びました。
さて、前置きはこのぐらいにして、映画は、冒頭の主演の山田孝之のやくざ者が町中を疾走するシーンから一気に引き込まれます。この辺は、白石監督の確かな手腕なのでしょう。そして、あれよあれよと物語が進み、官軍と奥州同盟軍の板挟みになった”新発田藩”の苦境が描かれるのですが、史事をふまえたフィクションの中で、”小芝居的”な策略をめぐらすのが、阿部サダオ演じる、腹の読めない家老ですねえ。まあ、バカな若殿を守るため、藩を守るため、という彼なりの正義のためには、10人の囚人や流り病にり患し隔離した百姓たちの命や口約束などは全く顧みないというまさに”政治”の非情さを告発するメッセージにも見えます。まあ、現在の政治の現状から実感が伴います(笑)。
それにしても、一本のつり橋の要所である砦を守る決死隊は、侍殺し、強盗殺人、辻斬りなどの粗暴犯に加え、密航や姦通、さらには火付けの女囚人まで加わった10人の囚人と、藩から密命を受けた藩士3名と藩士が通う道場主の面々です。しかし、「七人の侍」と違って面白いのは、主人公の行動ですねえ。とことん自分勝手に砦から脱走を試み、その都度、思いもよらぬ事態となって、大アクションが始まります。しかも、最後までなかなか改心(?)せずに主人公らしからぬ行動を続けるのが笑えます。なお、彼を実の兄と思いこむ頭の弱い花火師の予想外の活躍が見ものです。
そして、ドラマが進むにつれ、次第にもう一人の主演というべき存在が明らかになります。仲野太賀が演じる道場主です。まあ、最初から2人の主演という形だったのでしょうが、若い俳優さんはあまり知りませんでしたので、最後にやっと気が付きました(笑)。彼は、殺陣も頑張っており、儲け役ですよねえ。最後のセリフも泣かせます。宣伝文句は”本物”ということらしく、要は、殺陣にワイヤーアクションなど使わず、「切腹」や「上意討ち」を目指したとのこと(パンフレットによる)で、心意気はしっかり感じました。
一方、少々気になったことが一つ。ドラマの要となる砦のオープンセットのことです。つり橋は祖谷のかずら橋をモデルに実際に作ったそうですが、その他の建物などが昔の東映時代劇の安っぽいセットのように見えて残念でした。どうにも、本物感、生活感が無いのですよねえ。地面が平坦過ぎるのかな? しかも、周囲の草木の緑がなまなましく、全体的に安っぽい映像に見えます。これは、照明や撮影の問題なのでしょうか、とても残念でした。
しかし、作品全体としては、なかなか面白く出来ていますし、最後も”全滅”ではなくてなんかほっとしました。是非、未見の方はご覧ください。
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