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2024年11月22日 (金)

グラディエーターⅡ 英雄を呼ぶ声

 リドリー・スコット監督の史劇の傑作「グラディエーター」の続編が「グラディエーターⅡ 英雄を呼ぶ声」です。前作は、「ベン・ハー」や「十戒」などの巨費を投じて作られたスペクタクル史劇をCG技術を駆使して現代に蘇らせたエポックメイキング的な作品でした。主演のラッセル・クロウは、アカデミー賞の主演男優賞をとり、作品賞を含めて5部門を獲得しています。いやあ、クロウ演じる将軍マキシマスのかっこよさをはじめ、円形競技場コロセウムの巨大さと剣闘士の闘いの迫力には驚きました。

Img_20241120_00011  さて、その十数年後の物語という続編で、闘技場で散ったマキシマスの子が主人公ということなのですが、前作では、確か妻とともに処刑されたはず、という記憶があったせいか、ポール・メスカルが演じる主人公の素姓がいまいちわからず、その正体が分かる中盤までは、どうも落ち着きませんでした。ここではネタバレはしませんが、さすが、リドリー・スコット監督ですねえ、後出しのような気がしますが、実にうまく正当な続編の物語を作り上げています。これは感心しました。

 それにしても、冒頭、アフリカの海岸要塞都市に攻め込むローマ帝国のガレー船団の映像は、あの史劇の金字塔である「ベン・ハー」の名シーンをCGでよりリアルに、そしてスケールをパワーアップさせており、素晴らしい迫力でした。ここは文句なし(笑)です。

 その一方、円形競技場での剣闘士の戦いは、前作の”戦車との攻防”や”トラ”を超えようと、マントヒヒや巨大なサイなどを登場させるなど工夫は認めますが、円形競技場の中に海水を入れて人造の海を作り、ガレー船の合戦を再現するのは、いくらなんでもやりすぎです。古代の競技場施設の構造では、2隻の船を浮かべるだけの量の海水を溜めることはあまりに絵空事にすぎるような気がします。その上、生きたサメを何頭も泳がせるなど噴飯ものです。ここのシーンでドン引きして、一気にさめました。・・・残念です。

 それでも、前皇帝の姉役のコニー・ニールセンはあいかわらず美しく、双子の皇帝はその狂気さを熱演しますが、なにより驚いたのが、今作の影の主役ともいうべき存在がデンゼル・ワシントン演じる剣闘士団のオーナーでした。ワシントンの俳優としての格などから、前作のオリバー・リードのような儲け役と思い込んでいましたから、まさか、まさかの展開で、正直、こんな役をワシントンが引き受けたことが信じられませんでした。・・・面白かったけど(笑)。でも、指輪を無意識に回す仕草はイコライザー役が抜けていない(笑)という気もします。

 以上のように、いろいろ突っ込みどころもありますが、総体的にはなかなか面白く出来た、久しぶりの史劇大作でした。史劇ファンの方は、是非大スクリーンでご覧ください。
 なお、この映画は劇場パンフレットが販売されていませんでした。どうも最近パンフを作らない作品が増えている気がするので、パンフレット・コレクターとしては少々心配しています。どうか、映画制作会社におかれましては、少々高くてもいいですから、せめてパンフレットの発売は止めないでください。パンフレットは、ポップコーンと同じように映画とセットの劇場文化(笑)なのです。お願いします。ちなみに掲載写真は2つ折りの宣伝チラシです。

2024年11月20日 (水)

侍タイムスリッパー

 最近、たった1か所の映画館で公開された後、”実に面白い”と評判が評判を呼び、公開される映画館が増えているというSF映画「侍タイムスリッパ―」をやっと見ることができました。地元のTOHOシネマで何の予告もなく突然封切られたのです。まあ、”多分地方では随分先になって2番館あたりで公開されるのだろうなあ”と半分諦めていたのが、うれしい誤算です。ありがとう、TOHOシネマさん(笑)。

Img_20241120_0001 さて、ストーリーは、幕末の侍が現代の時代劇映画撮影所にタイムスリップして、時代劇の斬られ役として活躍していくという、なんともあ然とするような設定なのですが、とにかく時代劇、いや映画づくりに対する愛情が満ち溢れており、映画ファンなら自然に応援したくなるような物語なのです。しかも、大手映画会社の製作ではなく、安田淳一という個人が監督、脚本、撮影、照明、編集などをこなす自主映画というのですから、高校時代に8mm映画を撮っていた者からすれば、もう奇跡のような作品です。

 しかも、”自主映画”という悪い意味の安っぽいイメージは、開巻、お寺の前で侍二人が待ち受ける場面からいきなり吹き飛びます。映像がきれいでしっかり落ち着いています。また、殺陣が始まったとたん鳴り響く太鼓の演奏に驚きました。いかにも”時代劇の始まりでっせ、楽しんでやー”というようなまっすぐな勢いには感動しましたねえ。音楽は誰が担当したのでしょうか、知っている方がいらっしゃれば教えてください。

 その後、タイムスリップした侍の目を通して、時代劇をつくる京都撮影所の現場や切られ役たちの生きざまをコミカルに描いていきます。主演の山口馬木也さんと撮影所長役の井上肇さん以外の役者さんはよく知りませんでしたが、考えれば、自主映画という少ない予算で、少なくても数人の名の知れた役者さんを雇い、本物の東映時代劇撮影所で撮影していること自体も奇跡かもしれません。こうした無名の役者さんたちを含めた出演者の熱演やスタッフ達の目に見えない努力により、観客の期待を超えた、笑いと人情あふれる映画作りにまつわるドラマが完成したのだと思います。ちなみに、竹光に真剣の重さをもたせる演技などは、昔から言われていることなのですが、映像にすると、殺陣の深みや面白さが良くわかります。なんといっても、日本人なら誰も時代劇が好きなのですから、多分(笑)。

 映画のラストは、真剣による決闘の撮影という事態になって、「椿三十郎」なみの長いにらみ合いが始まるのですが、そういえば、山口馬木也は仲代達矢に似ているなあなどと頭の片隅で思ったりしながら眺めていると、”あっと驚く為五郎(我ながらさすがに古いフレーズとは思いますが、なんともぴったりなオチ表現なのです)”的な決着で実に感心しました。うん、伝説の「カメラを止めるな」現象を一寸彷彿させる、見事な脚本です。若侍役の加山雄三ではないですが、おもわず”お見事”と言いたくなりました。

 とにかく、時代劇への思いや映画作りの現場の楽しさをストレートに描いた心温まる映画でした。映画ファンならぜひ見てください。

 それにしても、当地の劇場での取り扱いが無く、やむなくオークションで買い求めた劇場パンフレットによると、安田淳一監督という人は、1967年生まれで、大学卒業後、ブライダルやイベントのビデオ撮影業に携わり、商業映画として2014年「拳銃と目玉焼き」2017年「ごはん」を監督したそうです。そして、2023年家業のコメ農家を継いだものの赤字経営で、当映画の完成時には手持ち金が数千円だったことがネットで話題になっていました。いやあ、経歴からも凄い人ですよねえ、大したものです。撮影裏話のほうも面白そうですねえ。ちなみに、この映画の脚本の良さのせいか、東映のプロデューサーが格安で便宜を図ってくれて、撮影所が暇な夏場にセットの使用や関係スタッフの支援が可能になったという話はうれしいエピソードです。このプロデューサーの心意気によって、映画の中でもふれている過去に時代劇映画を捨て去ったという”東映”を少しは見直した(笑)というのはやっぱり言いすぎかな。とにかく、こうした関係者の協力を取り付けながら見事な作品を完成させた安田監督さんには心から敬意を表します。これからも頑張ってください。

 

2024年11月13日 (水)

十一人の賊軍

 映画「十一人の賊軍」は、かつて東映が時代劇黄金期の末期に「十三人の刺客」をはじめとする「十一人の侍」や「十七人の忍者」などの集団抗争時代劇を製作していた頃、後に「仁義なき戦い」で名を成す脚本家笠原和夫氏が書いた脚本のプロット16ページを基に製作されたそうです。ネットによると、脚本自体は、当時の東映プロデューサーからボツを喰らったため、本人が破り捨てたそうで残っていないとのことです。そして、この幻の作品を映画化しようとしたのが、東映のやくざ映画の実録路線「仁義なき戦い」を承継したような「孤狼の血」等で評価の高い白石和▢監督であり、脚本も同作のコンビである池上純哉氏です。

 正直、東映の集団抗争時代劇は、「十三人の刺客」は別格(オリジナル作品のことです。)としても、その他の作品は話にあまりにも救いがなくて、現在の年令からは少しきついかなあ(ちなみに「弧狼の血」も未見です。)と思っておりましたが、前作「碁盤斬り」が丁寧な”時代劇”になっていましたので、劇場に足を運びました。

Img_20241113_0001  さて、前置きはこのぐらいにして、映画は、冒頭の主演の山田孝之のやくざ者が町中を疾走するシーンから一気に引き込まれます。この辺は、白石監督の確かな手腕なのでしょう。そして、あれよあれよと物語が進み、官軍と奥州同盟軍の板挟みになった”新発田藩”の苦境が描かれるのですが、史事をふまえたフィクションの中で、”小芝居的”な策略をめぐらすのが、阿部サダオ演じる、腹の読めない家老ですねえ。まあ、バカな若殿を守るため、藩を守るため、という彼なりの正義のためには、10人の囚人や流り病にり患し隔離した百姓たちの命や口約束などは全く顧みないというまさに”政治”の非情さを告発するメッセージにも見えます。まあ、現在の政治の現状から実感が伴います(笑)。

 それにしても、一本のつり橋の要所である砦を守る決死隊は、侍殺し、強盗殺人、辻斬りなどの粗暴犯に加え、密航や姦通、さらには火付けの女囚人まで加わった10人の囚人と、藩から密命を受けた藩士3名と藩士が通う道場主の面々です。しかし、「七人の侍」と違って面白いのは、主人公の行動ですねえ。とことん自分勝手に砦から脱走を試み、その都度、思いもよらぬ事態となって、大アクションが始まります。しかも、最後までなかなか改心(?)せずに主人公らしからぬ行動を続けるのが笑えます。なお、彼を実の兄と思いこむ頭の弱い花火師の予想外の活躍が見ものです。

 そして、ドラマが進むにつれ、次第にもう一人の主演というべき存在が明らかになります。仲野太賀が演じる道場主です。まあ、最初から2人の主演という形だったのでしょうが、若い俳優さんはあまり知りませんでしたので、最後にやっと気が付きました(笑)。彼は、殺陣も頑張っており、儲け役ですよねえ。最後のセリフも泣かせます。宣伝文句は”本物”ということらしく、要は、殺陣にワイヤーアクションなど使わず、「切腹」や「上意討ち」を目指したとのこと(パンフレットによる)で、心意気はしっかり感じました。

 一方、少々気になったことが一つ。ドラマの要となる砦のオープンセットのことです。つり橋は祖谷のかずら橋をモデルに実際に作ったそうですが、その他の建物などが昔の東映時代劇の安っぽいセットのように見えて残念でした。どうにも、本物感、生活感が無いのですよねえ。地面が平坦過ぎるのかな? しかも、周囲の草木の緑がなまなましく、全体的に安っぽい映像に見えます。これは、照明や撮影の問題なのでしょうか、とても残念でした。

 しかし、作品全体としては、なかなか面白く出来ていますし、最後も”全滅”ではなくてなんかほっとしました。是非、未見の方はご覧ください。

 

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