八犬伝
先日公開の映画「八犬伝」の原作があの”忍法帖シリーズ”作家の山田風太郎とは知りませんでした。風太郎忍法帖は結構好きでほとんど読んでいるのですが、晩年の作品にはあまり関心がなかったのです。
それにしても、戯作者”曲亭馬琴”と挿絵も描いた天才浮世絵師”葛飾北斎”との交流を描きながら、完成までに28年もかかった全98巻、106冊の大長編戯作「南総里見八犬伝」のストーリーを交互に描く、虚実を交えた物語とは、さずが娯楽小説の巨匠”山田風太郎”ですねえ。その天才ぶりに改めて感心します。今度、原作も読んでみようかな?
さて、その小説を映画化した今作では、”実”の世界の曲亭馬琴に役所広司、葛飾北斎に内野聖洋が扮しています。さすが、”いかにも天才同士の友情とはこんな感じか”と思えるような見事な演技です。特に、内野の演技は、テレビドラマ「仁」の”坂本龍馬”以来の適役ではないでしょうか。実際、葛飾北斎とはこんな人だったのかと思ってしまいます。
そして、この映画の一番の見せ場は、何といっても、中盤の歌舞伎小屋の舞台の”奈落”での、東海道四谷怪談を書いた”鶴屋南北”との戯作談義です。”虚”と”実”のとらえ方を通じた「勧善懲悪」の否定であり、戯作への批判です。いやあ、ここは戦慄します。とりわけ、逆さにぶら下がった”南北”の異様な姿が不気味です。
実は、南総里見八犬伝は江戸時代では大ヒット作品であり、原稿料で食えた最初の著述家と言われていますが、明治に入って”近代文学”という名のもとにその価値が否定され、日本の小説は、目に見える範囲の現実的な純文学が上で、荒唐無稽な娯楽小説は下かのような扱いとなってしまいました。
まあ、最近になって、エンターティメント小説という形で、SFやら、時代小説やら、様々な分野が評価され始めたのはうれしいことです。まあ、実際は、純文学作品が売れなくなっているせいかもしれませんが、推理小説の作家が”文豪”と言われ始めた気もしますので、個人的にはうれしいことです。
話がそれましたが、この場面は、小説であれ、映画であれ、大衆向けの娯楽作品を創造する者たちの本音かもしれません。いやあ、大変気に入りました。このシーンだけで観る価値がありましたねえ。最後に、”渡辺崋山”のダメ押しの名セリフがありますが、それは是非映画でご覧ください。
一方、”虚”である南総里見八犬伝の方は、剣士が8人も居るので正直だれがだれだか分かりません。いずれも私が名前を知らない若い男前の俳優さんが演じています。そして、当然ながらCG映像がてんこ盛りですが、犬の”八房”の造形がもう全くイケませんねえ。日本のCG技術レベルを再確認識させられてがっかりです。白組に頼んでほしかった(笑)。
そのほか、ラスボスの”玉梓”役は、栗山千明がそれなりに頑張っていましたが、実写の”玉梓”といえば、新解釈版という小説「新・里見八犬伝」を原作にして、1983年に映画化した深作欣二監督の「里見八犬伝」での、夏木マリが”体を張った”妖艶な姿が圧倒的ですので、さすがにこれには及ばなかったのはしかたがありませんねえ。しかも手下の”船虫”などは大ムカデに変身しますぞ(笑)。まあ、せっかくのCGは、ありきたりな”炎の顔”ではなく、こういう奇想天外なアイディアに使ってほしかった。ちなみに、ヒロイン役(静姫)は若かりし頃の薬師丸ひろ子でしたが、当時は実に可愛かったなあ(笑)。確かこの作品のDVDはどこかにあるはずですので、今度、捜して再見してみましょう。
以上のように、”虚”の映像にはやや不満がありましたが、”実”と”虚”を交互につなぐ構成は、予想外に違和感が無くスムーズに場面が展開していくので、その辺は曽利文彦監督さんの手腕を感じました。お見事です。未見の方は是非ご覧ください。
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