ドラキュラ/デメテル号最後の航海
ブラム・ストーカー原作の小説「吸血鬼ドラキュラ」の中で、これまで一度も映画化されていない章が第7章「デメテル号船長の航海日記」とのことです。まあ、本筋とは無関係のルーマニアからロンドンまでの船旅のエピソードですから、どの映画でも帆船の出発あるいは英国への漂着シーンのワンカットですましているのは当たり前なのですが、今回の映画化では、その航海中に起こった惨劇を初めて描いた、というのが売りのようです。ドラキュラの物語としては、結末が分かっているので、やや物足りない、一種の添え物的な小品になるのですが、”エイリアン”の宇宙船を帆船に置き換えたホラー映画として楽しんでください。
まあ、ドラキュラの造形は完全なモンスターですからねえ。廉価版のブルーレイに挿入されているメイキングを見ると、監督が”これまでのドラキュラ映画にはなかったユニークな姿”と自負していましたが、どうみても、あのフランシス・フォード・コッポラの超B級映画「ドラキュラ」の蝙蝠形態にそっくりなのですが、いかがでしょう。
それにしても、この作品では、当時の港町や帆船のセットのリアルさに感心します。メイキングを見ると、全編CG映像かとおもっていたら、マルタ島の巨大ドックに実物大の帆船を造り上げて、迷路のような船内のセットで撮影を行ったそうです。小品とは言えないほど予想以上にお金がかかっている模様です。全く、最近のハリウッド映画の史劇などのリアルな再現度が半端ありません。特に、衣装や食事風景などセットや小物にも当時の不衛生な生活環境が詳細に反映されているほか、港町の広々した風景などでも、セットとCGが見事に融合した映像には本当に脱帽します。どこか嘘くさい、きれいごとの邦画との埋められない差を感じますねえ。
ところで、ドラキュラ映画は、ご存知クリストファー・リー主演の英国ハマープロのシリーズが気に入りなのですが、1973年公開のジャック・パランス主演の「狂血鬼ドラキュラ」という作品があり、”ブラム・ストーカーの原作に最も忠実なドラキュラ映画と云われている”という宣伝文句に騙されて、安売りDVDを買ってしまいました。結果、いままで観なかったのが正解でした。大失敗です。まったく観る価値はありません。
そのため、公開当時は超B級といわれ、正直あんまり感心しなかった記憶があるコッポラの「ドラキュラ」のDVDを見直したところ、内容をほとんど覚えていなかったせいかもしれませんが、これが予想以上に面白かったのです。特に、吸血鬼に堕ちる前の英雄ドラキュラ公の場面は、影絵的な演出なども相まって素晴らしい。アカデミーの衣装デザイン賞、メイクアップ賞、録音効果賞を受賞したのもうなずける絢爛豪華さです。しかも、よく考えると、ドラキュラをゲイリー・オールドマン、ヘルシング教授をアンソニー・ホプキンズ、ヒロインのミナをウィナ・ライダー、ヒロインの婚約者ジョナサンをキアヌ・リーブスが演じているのです。信じられない豪華メンバーです。
ただ、ストーリーは、”コッポラらしい”と言えばいいのか、原作とは異なり、吸血鬼となったドラキュラ伯爵の悲しみと愛を描いており、ハマープロ作品のような勧善懲悪ではない描き方の一方で、正義のヘルシング教授の変人ぶりなどが強調されている上に、夫と愛人(?)の間をふらつくヒロインのミナには感情移入できず、なんとも混乱します。
しかし、このコッポラ作品で、デメテル号に搬入された”土の入った箱50個”の謎も解けたような気がして納得です。どうやら、コッポラ作品がベースになっているのは、最近再評価されているせいなのかな? 実際に再見すると、いろいろ突っ込みどころもあるが、豪華な雰囲気でエロティックでもあり、なかなか面白かった(笑)。以上です。
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