透明人間
以前から気になっていた映画「透明人間」のスチールブック版ブルーレイ中古品を購入しました。透明人間というとHG・ウェルズのSF小説の古典を原作にして「カサブランカ」の風見鶏の警察署長を演じた名優クローズ・レインズの主演で1933年に映画化した「透明人間」によって、フランケンシュタインの怪物やドラキュラ、狼男、ミイラ男と並ぶユニバーサル映画の古典的な看板モンスターの1柱となっています。その後も、何度も再映画化されており、最近の主な作品では、2000年公開のケビン・ベーコン主演の映画「インビジブル」が印象に残ります。CGを使って透明化の過程を延々と見せるなど、いかにもポール・バーホーベン監督らしいグロシーンが有名です。全然、面白くなかったけれど・・(笑)
それにしても、”透明人間”という存在は、考えてみれば、薬を飲んで透明になるものの、実は全裸で行動しなければならないという大きなハンディがあり、正直、”覗き”ぐらしか役に立たないのではないか、という気にもなりますし、くわえて、最近のユニバーサル・スタジオが古典のモンスター達を今世に復活させたいとして企てた大プロジェクトは、トム・クルーズを主演に迎えた「ミイラ男」が大コケをしてしまい、立ち消えになって現在に至っています。
こうしたことが、私が2020年公開の「透明人間」を敬遠していた背景ですが、もう3年も経過しましたので、今回、思い切って観てみることにしました。決して”円盤が安かったから”という理由ではありません(笑)。
さて、映画は、夜中の3時ごろ、豪邸のベッドから女がこっそり抜け出すところから始まります。男は眠ったままであり、まったく訳がわからないものの、なかなかどきどきします。床の犬のエサ皿を含めてペットには注意しましょう。決して良いことはありません(笑)。
結局、天才科学者で大富豪の夫のモラハラから逃げ出す女のお話なのです。
主演はエリザベス・モスという女優さんで有名な演技派だそうです。さすが、夫の影におびえる姿は、目の下のクマのメイクアップもあって鬼気迫る演技です。逃亡した友人宅で”部屋に透明人間が居る”という彼女の訴えは、もはや精神病を病んでいるとしか思えないほどの尋常ならざる迫力があります。
もっとも、観客の立場からすると、私などは吐く息も白くなる寒い中、透明人間が家の内外を全裸で徘徊していることを想像して、ややシラケていたのですが、いやあ、今作の透明化の方法に愕然としました。嗚呼、これが21世紀型なのかと、一寸、感動しました。それに、病院で顔に包帯を巻いた患者さんの姿を見せるなど、オリジナル作品へのオマージュもあって非常に好感が持てます。
そして、主人公を追い詰める夫の病的な手口が徐々に明らかになるにつれ、本当に鳥肌が立ちます。頭が良い人間の狂気さはとんでもないと改めて教えてくれます。自殺を偽装した夫は、財産管理者である兄を使って、40万ドルの遺産を餌に主人公を追い詰めます。主人公も必死に抵抗しますが、事態はどんどん悪くなります。逃亡先の友人(警官)とその娘にも嫌われ、頼みの綱の主人公の妹とも仲たがいを仕組まれます。その後、さらなる非情な罠にはめられて半狂乱となった彼女は、精神病院に措置入院させられます。もう万事休すとなった病室から、主人公の反撃が始まります。なんかアルフレッド・ヒッチコックのドラマを思い出しました。
しかし、反撃開始からもなかなか話が一転二転、さらにとんでもない展開となって一体どうなるんだと思わせて、衝撃のラストを迎えます。ああいうオチは倫理上問題は無いのか? でも、あれだけやられたらしかたないよねえ。ダーティ・ハリー以降、赦されます(笑)。
なんとも、大変疲れましたが、映画としては大変よくできていました。まあ、しいて欲を言えば、劇中で主人公が富豪で天才科学者である夫に問いかける”何故、私なんかにこだわるのか”というセリフではないですが、”玉の輿”という設定にはやっぱり”絶世の美女”が前提です。ここがやっぱり凡夫には不満ですねえ(笑)。
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