ジャニー・ギター
最近購入した映画音楽のCD(当ブログ2023.12.31参照)を聴いていて、西部劇の名曲「ジャニー・ギター」が主題歌となっている映画を観たとが無いことに気がつきました。いまやスタンダードとなっているほどの名曲なのですが、私の学生時代では、この曲が使われた映画「大砂塵」については、”なんとも出来が悪い西部劇”という評価が一般的であったため、私の好きなジャンルである西部劇なのに、これまで一度も見る機会を得ようとはしませんでした。
でも、今回、映画音楽を聴き直したことを契機に一念発起し、西部劇「大砂塵」のブルーレイをアマゾンで探してみました。ところが残念なことに、DVDもブルーレイも既に絶版です。プレミア商品は高額で手が出ませんしねえ。
ただ、現在この作品は再評価もされており、最近”復刻シネマライブラリー”でブルーレイが少数再版されていたようです。そこでヤフーオークションを調べてみると、比較的安価な中古品が出品されていましたので、即ゲットしました。
さて、作品の感想の前に、日本語タイトルの「大砂塵」という由来は、主人公らしいギターを背負った男が現れる冒頭にいかにも西部らしい砂塵が舞うことからなのですが、まあ、それだけなのです(笑)。
劇中でその男は”ジョニー・ギター”と名乗り、それが本来の原題のタイトル「ジョニー・ギター」となっています。
でも、主題歌は”ジャニー・ギター”なので、若干カタカナ表記が違うのですが、そのあたりのことは、ブルーレイの特典の小冊子には何の説明もありません。どなたか知っている方は教えてください。
実は、復刻ライブラリーのブルーレイ特典の小冊子の解説がなかなか面白く、毎回楽しみにしているのです。この作品についても、後で詳しく説明しますが、当時の評価とその後の再評価、そして、この作品の製作の背景が実に興味深いのです。
内容にもどりますと、男は砂塵の中、荒野にある一件の酒場(町中にないのだ!)にたどり着きます。其の酒場の外観は、西部劇らしくない邸宅で、何故か後期スターウォーズに出てくる異世界の酒場を思い出させました。どうでも良いですが、これは多分真似していますよねえ(笑)。
以下、小冊子の小ネタを交えて説明すると、この酒場の女オーナーを演じたのが、戦前からのスター女優のジョーン・クロフォードなのですが、この映画撮影時はもう50歳近い年齢だそうで、黒髪で目をぎょろぎょろさせて威嚇します。顔も大きく、とても美人のヒロインというイメージではありません。日本人の私には全然感情移入できません。こわいのです(笑)。
物語は、その酒場の女オーナーと鉄道の敷設の利権にからむ地主たちとの争いなのですが、敵対する地主側の有力者が駅馬車強盗に兄を殺された妹という設定です。その女地主を演じるのは、当時ラジオ俳優からいきなりアカデミー助演賞を獲ったという演技派女優です。小柄でいかにも田舎娘というイメージなのですが、女オーナーの男友達への複雑な感情から、段々その狂気の行動を見せてくるのはさすがです。この人も怖いのです。
しかも、男どもは大勢いるのに結局はこの女二人の戦いであり、西部劇の常連脇役のウォード・ボンド(顔見たらわかる)、まだ無名のアーネスト・ボーグナイン(痩せているので最初別人かと思った)、「駅馬車」の曲者役者ジョン・キャラダインなどが顔を揃えているのですが、なんとも影が薄いですねえ。みんな地主の小娘に唆されてリンチなどするのですから。まあ、いかにもアメリカの無法地帯という感じですが、それ以上に、なんともやりきれない展開が続くのは、どうやら当時のハリウッドの赤狩りの影響があるとのことです。監督も脚本家も巻き込まれたそうで、その感覚が作品に色濃く反映されているようです。いやあ、アメリカという社会は、今も昔もときどき”極端”に走りますねえ。
そして、肝心な主演の筈のヒーローの男優さんがさらに一段と影が薄いのです。ギターしか持っていないものの、実は昔は凄腕のガンマンだったという設定もなんとも見せ場がありません。しかも、その持っていたギターも劇中ではほんと少しのさわりしか演奏せず、お目当ての主題歌「ジャニー・ギター」は、劇中では短いフレーズを2回しか披露されないのです。結局、この名曲はエンドロールでやっと全編披露され、それが大ヒット曲になるのですから、この曲の持つインパクトはそれだけ大きかったのでしょう。ただ、本編によるものではなかったというのがなんとも悲しいですねえ。
ちなみに、ブルーレイ特典の小冊子によると、ジョーン・クロフォードはその後、あの老醜虐待スリラー映画「何がジェーンに起こったか?」に主演し、敵対する娘の役者も「エクソシスト」で悪魔の吹き替えを行ったそうです。まさしく”化け物対決”だったのです(笑)。なお、私は「何がジェーンに・・・」は見ていません。ストーリーを聞くだけで悍ましくて観る気は全くありません。
また、当時この作品を"思わせぶりな気張った演出は苦笑。・・物々しき愚作と言うべき(中略)"と評したのは、双葉十三郎氏だったそうです。私は、この映画評論家について50年代からSF映画を正当に評価していた数少ない評論家として贔屓にしていた(評論全集も持っています。)のですが、どうやら海外作品のSFは褒めるものの、初代「ゴジラ」を貶していたようですので、どうやら”このジャンルはこうあるべき”という固定観念があったのではと少し幻滅を感じ始めています。
確かに、この映画はいわゆる”西部劇”と言う感じの作品ではないですが、少なくても自宅でBDを一度も早送りにせず最後まで通して一気に観ることができましたので、愚作というほどのものではないと思います。
実際、後年、フランソワ・トリュフォーなどが”ウエスタンの「美女と野獣」”と評価し、その後日本でも評価の見直しがなされたと聞いています。でも、和田誠氏が”男にはたばことコーヒーがあればよい”という劇中セリフを高く評価しているのは、すこし違うのかなと思いますねえ。だって、ラストは女とよりを戻すのですから(笑)
そして、最後に一番驚いたのが、この作品が名作「カサブランカ」を元ネタにしているという脚本家の告白です。いやあ、男女逆転劇ですか?、でも、まったく別のものになってますよ(笑)。興味ある方は一度ご覧ください。
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