首
北野武監督の新作時代劇「首」は、間違いなく画期的な作品です。なにしろ、映画やテレビで長い間きれいごとで描いてきた戦国武将の英雄譚を赤裸々にリアルに描いてみせた作品なのです。さすが、”天才たけし”です。目の付け所が全然違います。思えば、北野版「座頭市」で、CG技術をつかって斬られた斬口を見せるという極めてリアルな殺陣もお見事でした(世間ではあんまり評価されていませんが、この殺陣も斬新でした。)。
考えてみれば、戦いで何千人もの人間を殺し、捕えた者達の首をはねたという史実が実際どうであったか等は、少し考えればその比類ない残虐性はわかることなのですが、天下統一とか歴史的な意義からすっかりその辺は目をつむっていたのですねえ。しかも、衆道などの性癖も当時の一般的な習俗として定着していたことは明らかなのですが、誰もはっきりあんまり描かなかったですねえ。
正直にいうと、この作品は劇場に行くのが少し億劫でした。往年の大映時代劇の血の噴出などの様式美的な殺陣は結構好きなのですが、グロい死体の映像などは大の苦手なのです。今回はタイトルからして「首」じゃないですか!、一時はパスしようかとさえ思っていました。
ただ、YouTubeなどでは、”コメディ時代劇”あるいは”コント映画?”ではないかなどと言う感想もありましたし、どうやらグロさにも一定の節度がある感じでしたので、思い切って観て来ました。
そして、その感想なのですが、少し訳の分からない箇所(信長の手紙?)がありましたが、作品としては”見て損はない作品”だと思います。
まず、冒頭の合戦後の川辺のシーンも首なし死体に群がる沢蟹を描いているのですが、さほど気色が悪くなるほどの”絵”ではなく、逆に”戦国”という時代の雰囲気を観客に一気に伝えるという場面となっています。また、一族郎党の斬首刑も女子供のシーンはなく、節度があって安心しました。
戦闘シーンについては、敵と味方の色分けなど黒澤明作品を彷彿させるほどの迫力があり、いやあ大したものだと感心しました。パンフレットによると、既存の殺陣師の”いかにも”という殺陣を嫌って、たけしが自ら演出したらしい。このへんがやっぱり非凡なのですねえ。
そして主演者も、いつもの常連役者に加え、芸達者のくせ者揃いです。たけし監督作品にはみんな出演したがるそうですねえ。まあ、海外でも評価が高いですから当たり前かもしれませんが、今回は自ら売り込んだキム兄が抜け忍の芸人、曽呂利新左衛門役で良い味を出しています。あのとぼけた独り言には思わず笑いました。
それにしても、狂気の信長役でハッチャけた加瀬亮、真面目な明智光秀役の西島秀俊、そして荒木村重役でいつもながらの遠藤憲一は、衆道三角関係もご苦労さまでした。最近の風潮か、平気で男同士の濡れ場を見せるのが多くなりましたが、いろいろな意味で役者は大変ですねえ。まあ、観ている方もよく頑張りました(笑)。
また、千利休役の岸部一徳は相変わらずの存在感で、どんぴしゃりの適役でした。一方、黒人侍の弥助登場には「イエローモンキー」のセリフとともに驚きました。
さらに、今回、その演技のうまさを見直したのが、黒田官兵衛を演じた浅野忠信でした。ビートたけし扮する羽柴秀吉と大森南朋の羽柴秀長(秀吉の弟)とのやりとりは、まるで漫才トリオのような雰囲気で何度か吹き出しました。どうやらアドリブでのセリフが多くて現場は大変だったようですが、コメディタッチの中でもいかにも軍師らしい立ちい振る舞いもさりげなく表現されていました。ハリウッド俳優は伊達ではありませんねえ。
あと、ワンシーンだけなのに印象的だったのは、無茶苦茶な安国寺恵瓊の六平直政、切腹に時間がかかる清水宗治役の荒川良々は、いつもながら笑えました。蛇足ながら、家康の影武者作戦はやりすぎです(笑)。
観終わってみれば、「自分は百姓だ」という秀吉からの視点で、大将首をめざす手柄、衆道を好む武家の習わしなど当時の社会常識を蹴り飛ばすという構図になっていることにも感心しました。さすが、”天才たけし”の見方は、一味違うと感心しました。未見の方は是非ごらんください。ただ、女優さんは柴田理恵ぐらいであとは男ばかりの”むさい映画”であることはくれぐれもご承知おきください(笑)。
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