ザ・クリエイター/創造者
久しぶりに本格的なSF大作を観ました。「ローグ・ワン/スターウォーズシリーズ」の監督という紹介よりは「GODILLA/ゴジラ」の監督と言ってほしい、ギャレス・エドワード監督の新作「ザ・クリエイター/創造者」です。さすが私のご贔屓の監督さんだけのことはあります。やっぱり、アメコミ映画とは一味違って、なかなか考えさせられてしかも実に面白かったのです。
物語は、アメリカを模した白人の国が、ニューアジア(架空の東南アジア地域)で現地の人間と共存して生活しているAI達を、核爆発を起こした犯人として、空飛ぶ強大な要塞を用いて撲滅させようとしている中、引退した片腕片足の元モグラ(潜入捜査官)の黒人主人公が、新しい最終兵器の開発者である謎の科学者を捕えようと再びアジアに潜入するところから始まります。
とにかく、アジア地域で平和に暮らしているAIやアジア人に対して、ロスアンゼルスでの核爆発をAIのテロと決めつけて、圧倒的な武力で殲滅しようというアメリカを模した国の姿は、いやおうなく現実の米国社会の人種差別、インディアン政策、ベトナム戦争、イラン戦争など過去の黒歴史に加え、現実の中東情勢の危うさまでも彷彿させるのです。しかも、公開がAI反対で米脚本家組合のストライキのさなかという皮肉もあります。タイミング的にも、内容的にも、アメリカでの興行収入が伸び悩んでいるという噂は仕方のないことかもしれません。
それにしても、この映画を観てつくづく思ったのは、西洋と東洋の思想の違いです。日本などでは、鉄腕アトムの頃から、いや実際は昔話の付喪神の時代から、物に魂が宿ることが当たり前のように感じているのですが、西洋では、神と契約した人間(白人かも?)以外の存在を認めません。だから、過去の映画でも、ロボットはろくでもないモンスターのように描かれます。自然のあらゆるところに神が宿る東洋と唯一絶対神のいる世界の違いかもしれません。
正直、人間のようにうめき声をあげるロボットたちを冷酷に圧殺できるのは、最近まで奴隷制度を持っていた人種だけでしょう。いやあ、”針供養”などをする日本人にはとても無理ですねえ。もっとも、こうした理不尽さを鋭く描いたのは英国人の監督ですから、やはり西洋文明は恐ろしい。もっとも、この監督さんには、少年の頃に親と東南アジアを旅行した時の経験がかなりの影響を与えているようで、日本を含めて、アジアの文化には相当造形が深いようです。特に、最後のエンドロールのバックに虫の声を流していたのには驚愕しました。虫の音を楽しむのは日本人くらいで、特に、西洋人には虫の音は聞こえない(俗説?)そうなのですが、西洋人には肩こりが無いとおなじくデマかな(笑)。そういえば、タイトルには「ゴジラ」と同じように、縦書きの日本語もあしらっていたのですが、これは日本公開バージョンということなのでしょうか。パンフレットには何も書かれたいなかったのですが・・。
余談になりますが、先日ネットフリックスで放送が開始されたアニメ漫画シリーズ「PLUTO/プルートウ」を2日間で観終えました。この作品は手塚治虫の「鉄腕アトム」のエピソード「世界最大のロボット」を浦沢直樹が、イラン戦争等をモチーフにリメイクしたロボット漫画のアニメ化なのです。さすが、手塚治虫漫画文化大賞を2度受賞した唯一の漫画家というだけあって、実に面白く、すっかりはまってしまいました。そして、テーマである”ロボットとは、人間とは何かと考えさせる”、いかにも鉄腕アトムを生んだ日本の物語です。もっとも、主人公は、白人型のロボット刑事なのですが、ここでも戦争の陰謀が大国のエゴであることが描かれます。ただ、主人公の鼻は、もっと恰好のよい形にしてほしかった。「YAWARA」の脇役とおなじかぎ鼻だ・・・本当に余計なことでした(笑)。
最後に、パンフレットに書いていたメイキングのエピソードなのですが、東南アジアのロケ地では、ソニーの高感度の軽量カメラを使って撮影クルーも少人数で撮影したため、ハリウッド大作映画の製作とは思われなかったようです。おかげで製作費も安く上がり、今後のハリウッド映画の新たな製作の方向になるのかもしれません。さすが、俳優2人と手持ちカメラで南米を回って撮影した「モンスター/地球外生命体」で名をあげたギャレス・エドワード監督です。そして、いかにポスト・プロダクション(CG画像合成等)の出来栄えが作品の優劣を決めるかを証明しています。あの東南アジアの風景にマッチした巨大な空想的建造物のリアルさと見事さには驚嘆します。未来兵器での銃撃戦も鳥肌物でした。とりわけ、あの悲しいロボット爆弾と冷酷無比な女隊長は特筆ものです。
いやあ、SFアクション映画でこれだけ考えさせられた作品は久々でした。どうも御馳走様でした。
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