君たちはどう生きるか
宮崎駿監督の新作「君たちはどう生きるか」を観て来ました。宣伝が一切無くて、上映後もパンフレットさえ販売しないという情報制限の徹底ぶりです。テレビ局や広告代理店、出版会社などが参加した製作委員会方式が一般的なアニメ映画とは一線を画しています。何しろ映画の宣伝広告費は、テレビスポットや雑誌等への広告など製作費の1倍から1.5倍の費用が掛かるというのですから凄いものです。まあ、一種の利権の構造かもしれませんねえ。しかも、このメンバーは、作品の内容までいろいろ口を出すようで、宮崎監督はそれを嫌がっていたとか。そのため、今回は赤字覚悟ですべてジブリが自ら負担したと鈴木プロデューサーは言っているようです。いやあ、知名度の高い宮崎駿監督だからこその英断(又は大博打)だったのでしょう。もっとも、実際には広告費がなかったというのが本音かもしれません(笑)。でも、こうした方法が一定成功すれば、SNSなどの多様な情報媒体が定着してきた中では、これまでのようなテレビ中心の過大すぎる広告宣伝方法の見直しのきっかけになるのかもしれません。もっとも、せめて、あらすじとジャンルぐらいは予告していただかないと見に行く判断に困ります(笑)。
こうした既存の広告業界を無視した上映方式のせいでしょうか(笑)、この映画はとにかく評判が悪いのです。ユーチューバ―の中には「観る価値は無い。途中退場しようと思った。気持ちが悪い。」などいう悪意に満ちたコメントまであります。一般観客のレヴューも1点か5点に二極化して、平均して3点になるという低評価ぶりです。こんなに賛否が分かれる評価はあんまり聞いたことがありません。
というような状況の中での私の感想なのですが、なかなか面白かったのです。宮崎監督作品として楽しめました。
冒頭、”現実世界”のエピソードである戦前の田舎の風景などが実にち密な絵で好感が持てます。いわくありげな古びた屋敷と謎めいた周辺の森や池の作画はさすが見ごたえがあります。さらに主人公がベットに座るとクッションがしなる細かな動きがなんといっても宮崎節ですねえ。この絵(作画)の美しさを楽しまずに何を観るのでしょうねえ。・・・しいていえば、主人公と7人(数は不明?)のババアの性格付けはよくわかりませんが(笑)。絵を楽しまなければ、退屈と言う評価になるのでしょうか?アニメの見所は最終的には”絵”ぢゃないか(笑)。
とにかく、宮崎ワールドは、センス・オブ・ワンダーのファンタジー世界がメインなのです。”オオオジ”が作り上げた”秘密の箱庭世界”(そうとしか言えないセコさなのだ)を楽しみましょう。思えば「千と千尋の神隠し」と「ハウルの動く城」と似たような舞台なのです。
ストーリーは、うそつきで詐欺師のアオサギを案内役に行方不明の義母を探して、箱庭の小宇宙を旅するというものです。拉致されたペリカンやインコの悲哀さもあるのですが、ファンタジー世界ですから、舞台装置の整合性とか、存在理由とか、あんまり詰めても意味は無いのですよねえ。
一方、インコ大王などの”ファンタジー世界”の表現が、細密描写である”現実世界”と違って、昔の東映アニメのような単純な絵柄になっているのは先祖帰りか、それとも予算の枯渇か、という印象がぬぐえず、今一つインパクトに欠けています。それもあってか、往年の作品と比較してイマジネーションなどがやや安っぽい印象がぬぐえません。ここが残念でしたねえ。
それにしても、このタイトル「君たちはどう生きるか」はどういう意味があるのでしょう。観客への人生説教でもなく、オオオジの子孫への投げかけだったのでしょうか?ここは本当に分かりません。案外、もともとの原案とは全く違う内容になってしまったというのが真相かも(笑)。
なお、最後のエンドクレジットを見て驚愕しました。有名な俳優達が何人もが声優をやっているのです。鑑賞中は全然分かりませんでした。観終わった今でも、誰がどのキャラクターを演じたのか、さっぱりわかりません。少しショックです。これは是非後日発売されるというパンフレットを見てみたいものです。
最後に、何らかの意図による悪意があるとしか思えない酷評の嵐の中で、興行収入は4日間で20億円を突破しているとか。さすが宮崎駿監督です。まあ、一般観客は素直に作品を評価している現状が救いですねえ。とりあえずは、めでたし、めでたし。もっとも、ロケットスタートで失速もあるようですので、是非、皆さんは公平な目線でご覧ください。
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