社長たちの映画史
戦前から黄金期、そして5社体制の崩壊までの日本映画会社の盛衰史を経営者の視点から描いたノンフィクション「社長たちの映画史」は、最近では出色の読み物でした。とにかく、個性豊かな社長たちの仁義なき戦いが面白いのです。著者は「プロ野球「経営」全史」でも日本の経営者を描いており、綿密な資料に基づいての記述には定評があるようです。
この本には、ラッパで有名な大映のワンマン社長や「妾を女優にした」発言で物議をかもした新東宝の社長らも居ますが、日活も、東映も、そして東宝までもなかなかエグイのです。映画には全く興味がないが、社長になりたかった男、世界的な監督やスターにプロダクションを作らせて、自らはリスクを掛けずに利益を確保したプロデューサーなど、経営者としては立派かもしれませんが、映画ファンとしては情けない限りです。
ちなみに、黒澤明の有名な逸話で”隠し砦の三悪人があと10日で終わるところ、お天気待ちで100日延びた”件では、製作責任者は会社に進退伺を提出したそうですので、そりゃあ対策(嫌がらせ?)を取るのもわかります。でも、おかげで映画を作る環境は劣悪化してしまい日本映画自体が衰退化した原因となったともいえます。
いま絶頂の日本アニメも制作環境は酷いと聞きます。日本映画界は目先の利益ばかりでまた同じことを繰り返しているのかもしれません。お気楽な一映画ファンでもやっぱり心配になります。こうしたは背景には親会社の意向が多分にあったようですが、やっぱり企業経営は非情で厳しいものなのですねえ。
様々なエピソードの中でも、映画が好きで的外れな金をかけすぎて最後は破産した大映社長のエピソードがやっぱり面白い。振り出しは、撮影所の庶務係で、視察に来た男爵に気に入られ、出世を果たしていく姿はまさに”今太閤”。用意周到な独立騒動、長谷川一夫斬りつけ事件にもかかわる黒い疑惑、GHQとのしたたかな交渉など、権謀術策、口八丁、手八丁のやり手だったことは間違いないのですが、5社協定を守るための俳優達への無慈悲な対応などは今ではとうてい許されるものではないと思いますが、いかがでしょうか。まあ、そんな時代だったのかもしれませんが・・。
もっとも、彼だけでなく、他の社長も似たような状況であり、著者は”社長にとって俳優は河原こじきの延長ぐらいの認識”と喝破しています。干された俳優たちの悔しさはいかばかりか想像もつきません。当時はパワハラ、セクハラ当たり前の時代だったとしても、酷い話です。もっとも、今も芸能界では芸能事務所などは似たようなものなのかもしれません。忖度のマスコミでは表に出ないだけかな?
ちなみに、「妾を女優にした」発言の真相は、抜擢した主演女優さんに岡惚れした社長が愛人にすべく迫ったものの、件の女優さんは頑として拒んだために、外堀から埋めようと社長がマスコミにデマを流した結果と言うのですから、昔のパワハラは凄まじいですねえ。幸い彼女は操を守り通してその後幸せな結婚をしたそうですから立派です。尊敬します。
このように日本の映画会社の経営の歴史は、俳優や監督を食い物にして確立されたというような気までします。もっともハリウッドにしても、「黒澤明の弁護士」によるとアチラの大物プロデューサーも相当悪らつなようです。また、最近では、女優に対する”セクハラ”というレベルを超える性犯罪の常習者というトップの行状も暴かれましたので、まあ、洋の東西を問わず五十歩百歩かもしれません(笑)。
最後に、帯の宣伝文句を再掲します。「乗っ取り、引き抜き、分裂、独立。映画を見るより面白い。スクリーン外の壮絶バトル」という帯は内容を実に的確に表現しています。映画の裏面史に興味のある方には是非ご一読ください。
最近のコメント