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2022年9月24日 (土)

NOPE/ノープ

 いま話題の黒人監督ジョーダン・ピールの新作「NOPE/ノープ」は、賛否が分かれている作品です。この監督さんの「ゲット・アウト」や「アス」は人種差別をテーマにした斬新な演出で評判でした。もっとも、私は、これらの作品の深刻なテーマに恐れをなして、まだ見ていません。動画配信もあるのですが、どうにも心の準備ができない(笑)のですねえ。
 ただ、今回の新作は、そうした重いテーマではなく、決して見てはいけないという正体不明の空飛ぶ物体のお話という、実にSFぽい作品らしいということで、公開最終日に劇場に足を運びました。

Img_20220924_0002 映画のプロローグは、全く予想外の場面から始まります。チンパンジーの殺人現場なのです。頭に疑問符がついたまま、ロスアンゼルスの郊外の馬の牧場のシーンに変わります。黒人の牧場主が馬の調教中に息子の目の前で空からの落下物で死亡します。まったく物語の展開が見えませんが、能天気で口八丁な妹の登場によっても、何故かスリルだけが盛り上がっていきます。

 でも、やっぱり監督の持論テーマがしっかり描かれています。映画フィルム第1号となった”馬が走る映像”、その騎手が黒人だったがその名前は誰も知らないという逸話が語られるほか、何故か、隣にあるテーマパークの韓国系の東洋人オーナーが、冒頭のチンパンジーの殺人が起こったテレビ番組の子役だったことが明かされます。どうして、こんなエピソードが挿入されているのか、不思議でしたが、ポケットサイズの劇場パンフレットを読んで初めてわかりました。
 ネタバレになりますが、本筋と全く関係ないので説明しますと、”チンパンジー”は東洋人の別称であり、その猿が白人を殺すというエピソードを描くことで黄色人種差別を訴えているそうなのです。そういえば、白人の娘を撲殺したチンパンジーは、東洋人の子役には親愛の情を示していました。多分、ここが監督の主張したいことなのでしょうが、娯楽映画作品としては余計な脇道のような気がします。しかも、前半から延々と続きますからので、本当に何が何だかわからなくなります。

 それよりは、もっとストレートに”空飛ぶ物体”に焦点を絞ってほしかったものです。後半は、空の”トレマーズ”との戦いの物語になります。それが予想以上に面白かったのです。さすが注目されるだけの力量はある監督さんだと感心しました。
 空飛ぶ物体を撮影するため監視カメラを設置した電気屋の若者の登場をはじめ、中盤に起こる隣のテーマパークでの”謎の惨劇”を知って協力を申し出る、伝説の記録映画家などはなかなか人物設定も面白く、無口な黒人の息子もだんだんヒーローらしくなります。

 しかし、それ以上に、キャメラが凄い。牧場から見えるなんでもない渓谷と空を映して、実に美しい映像になっています。どうやら、キャメラマンがあのクリストファー・ノーマン監督と組んで有名なホイテ・ヴァン・ホイテマという人らしい。いやあ、どこがどう違うのか、わからないけど、広大な風景を見事にスクリーンに写しているのです。そんなリアルな風景映像の中で、”動かない雲がある”というセリフは衝撃的でした。

 そして、徐々に姿を現す謎の物体、UFO(空飛ぶ円盤)とばかり思っていたら、最後は、”新世紀エヴァンゲリオン”の使徒の実写化のような正体をさらけ出し、見えない敵の位置を把握するための赤や黄色のバルーン群の脱力感も伴って、斬新でシュールな戦いを見事に映像化しています。いやあ、この後半の怒涛の展開はなんとも素晴らしい。本当に無駄なエピソードをそぎ落とし、このエイリアンとの戦いに的を絞ってストレートに描いておれば、SF映画の傑作になったと思います。それでも、”SFエイリアン物”好きの私としては後半だけで十分面白かったと評価します。 

2022年9月19日 (月)

ブレット・トレイン

 ブラッド・ピット主演の映画「ブレット・トレイン」は、日本の小説家伊坂幸太郎のベストセラー殺し屋三部作の2作目「マリアビートル」をハリウッドで映画化したものらしい。実は、この作家の作品はあまり読んでいないのでわからないのですが、原作ファンからは原作と違うとかなりの不評らしく、全体として賛否両論のようです。まあ、「デッドプール2」の監督作品ですので、悪趣味なギャグと破天荒な展開は当然なのでしょう。

 私は、登場する殺し屋たちの人物設定や行動と長いセリフが予想より笑えましたので気に入っています。あいかわらずの欧米人から見た”不思議の国:ニッポン”も笑ってすませましょう。ウォシュレット式トイレを使ったピットの一人芝居は笑えます。あのへんなウエイトレスは有名な俳優かな? まあ”異世界の別の日本”のお話と割り切ってあまり気にしないようにしましょう(笑)。

Img_20220915_0001  とにかく、ブラッド・ピット扮する、運の悪い殺し屋「テントウムシ」が日本の新幹線に乗って、何故か、世界有数の殺し屋たちと戦うはめになるという突拍子もないストーリーが面白いじゃないですか。しかも、殺し屋たちの血みどろの過激なアクションは、何度死んだかわからない(笑)ほどの迫力がありますが、あまりの派手さにアクション・コントにも見えて、笑えます。

 特に、「みかん」と「レモン」という殺し屋コンビが秀逸です。多分、これは原作の設定なのでしょうが、中でも”きかんしゃトーマス”ギャグは笑えました。全編、クエンティン・タランティーノ監督の出世作「パルプフィクション」を彷彿させる饒舌なセリフ劇と、「デッドプール2」監督らしい回想(説明)シーンが見事に融合して本当に楽しめます。

 さらに、出演者が楽しいですねえ。みかんとレモンの殺し屋コンビは最近注目の若手ですし、”日本の誇り”の真田広之はもちろんですが、ロシア人の大ボスが”ゾッド将軍”でした。しかも、ゲスト出演で「ザ・ロストシティ」で共演した縁か、サンドラ・ブロックとチャニング・テイタムがちょい役で出演していたのも驚きでした。さらに、”デッドプール”本人までも一瞬姿を見せます。この人、いろんな映画に顔を出しますねえ(笑)。

 そして、ラストはどこか”異世界の京都”に着いて、さまざまな謎も回収され、一件落着かと見せた後、”みかん”の復讐までもしっかり達成されます。ハチャメチャな物語のようにみえてなかなかどうして筋は通っていました。未見の方は是非、”とんでも日本”をお楽しみください。

2022年9月 6日 (火)

「御用金」祝!!初ブルーレイ・DVD化

 五社英雄監督の「御用金」のDVDとブルーレイが初めて発売されました。この作品は、1969年公開の仲代達矢、中村錦之助、丹波哲郎主演の時代劇の大作なのですが、これまで、テレビでは何回か放映はあった(私は録画しましたが・・・)ものの、VHS化もレーザーディスク化もなく幻の作品となっていました。何故なんでしょうねえ。暴れん坊の五社監督だけに、フジテレビと東宝との間でなんか”大人の事情”があったのかな?そういえば、その昔、同じ五社英雄監督の「人斬り」がなかなかVHS化されないのは、ゲスト出演した三島由紀夫が切腹を演じていたから遺族の意向もあったなどとまことしやかな噂もされてましたが、それでも、VHSとLDは発売されていましたねえ。ちなみに、今回「人斬り」もDVD及びブルーレイ化が実現しています。ともかく「御用金」初DVD(BD)化おめでとうございます。

614npdhv8pl_ac_sx342_  さて、早速ブルーレイを購入し、再見しました。やはりブルーレイだと映像は綺麗ですから、劇場で見た時の、泥だらけの宿場町や雪山での斬新な殺陣とリアルな映像の衝撃が蘇ります。とにかく、雪山のロケは本当に寒そうです。昔の役者さんはえらいですねえ。いまなら、こんな過酷な現場は許されないでしょうねえ。映像からは体を張った殺陣、重そうな刀、凍える手など本物の迫力が伝わります。こういう絵を見ると、今時の時代劇は、本当に軽いですねえ。棒手裏剣の打ち合いなど斬新な殺陣にも感心します。

 それにしても、今回改めて見直しますと、この作品は、丹波哲郎扮する鯖江藩の家老が主人公でした。いやあ、丹波哲郎がなんとも格好良いですねえ。寒さ除けのマントや毛皮も素晴らしい。某手裏剣の名手という設定も良い。藩の財政健全化のためには村ごとの大虐殺もいとわない冷酷非情の所業ですが、単なる悪家老では収まらない為政者としてのゆるぎない信念までが感じられます。風格のある自室(セットが見事)でくつろぐ丹波哲郎の演技など貫禄が光ります。
 逆に、正義を貫く仲代達矢扮する主人公がなんとも融通のきかない厄介者(笑)のようにまで感じられます。

 また、幕府隠密役の中村錦之助も飄々とした持ち味が素晴らしい。この役は、当初三船敏郎が演じていたのですが、ロケ地で仲代達矢と大喧嘩し、その足で東京に帰ったという大事件が起こり、急きょ、中村錦之助(1966年五社作品”丹下左膳”の主演)が本当に友情出演したそうです。結果としては役柄から言って、剛の三船よりはかえって良かったのではないかと思います。

 そして、以前このブログでも紹介(2021.12.27参照)した1966年公開”牙狼之介”で主演した夏八木勲も丹波家老の懐刀として登場します。しかも、丹波の妹で仲代の妻である司葉子に密かな恋心を抱いているというそんなエピソードまで配慮されているのですから、いかにも五社英雄のお気に入りの役者という感じがします。さらに、お馴染み、無駄に抜刀術のうまい坊主頭の大部屋役者さんもしっかり出演です。

 いやあ、久しぶりに本格的な時代劇を堪能しました。すこし青臭いセリフや思わせぶりな映像もありますが、実に良かった。でも、もうこうした重厚な時代劇は、今の軟弱な役者さんでは作れないのでしょうねえ。本当に、”役者”が違います(笑)。

61gzxvnnutl_ac_sx342_ ちなみに、今回「人斬り」のブルーレイ版も購入しました。冒頭の暗殺のシーンは、雨の中で血煙が確認できました。実は、この血煙は、VHSでもLDでも映りませんでした。しばらくは、劇場で観たのは自分の錯覚かとも疑った時期がありましたが、確認出来てうれしい限りです。

  また、「牙狼之介」とその続編「牙狼之介 地獄斬り」も初DVD化されています。この作品もVHSもLDも発売されていませんでした。ただ、東映作品だけにブルーレイ化はまだ先のようです。それにしても、これから五社監督作品は、「獣の剣」や「十手舞」とDVD発売が続くようですが、今、何故、五社英雄なのか、事情を知っている人は是非教えてほしいものです。71pk1qgcmkl__ac_sx300_sy300_ql70_ml2_

71fvdyjcnnl__ac_sx300_sy300_ql70_ml2_   最後にもう一度、「御用金」のブルーレイ化ありがとうございました。長い間待っていたので本当にうれしい限りです。東宝さん、フジテレビさんに感謝申しあげます。まだまだDVDされていない名作もありますので、今後とも円盤化をどうぞよろしくお願いします。

 

 

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