アラビアのロレンス
先日観た「DUNE/デューン 砂の惑星」の余韻を引きずっていたせいか、原作に影響を与えたというデビット・リーン監督の本家「アラビアのロレンス」を観たくなりました。しかし、残念なことに、この名作をコレクションしていなかったことに気づき、丁度、半額セールだったブルーレイを購入しました。
久しぶりに観たところ、まず、冒頭のオートバイのシーンから私の記憶と違っています。確か舗装した地面だった気がしたのですが、どうやら、これは多分名物映画評論家の故淀川長治氏が公開当時”予想外の幕開けだった”と評した映画雑誌のコメントから、勝手に刷り込まれたニセ情報のせいだったのでしょう。まったく私の記憶は本当にあてになりません(笑)。しかも、最近、年のせいかさらに思い違いが多くなったような気がします。
で、ストーリーも全く覚えていない(笑)状態なので、実に新作を観るような新鮮な気持ちです。主演のロレンスを演じる若き日のピーター・オトゥールが若い(当たり前)ですねえ。加えて、その当時、いろいろな大作映画に脇役で出演していた、ハンバーグ顔のアンソニー・クエール(クインじゃないよ)の顔が懐かしい。
しかし、有名なオマー・シャリフの登場シーンは、さすがに覚えています。灼熱の砂漠で陽炎の中から現れる黒い影、CGなど全くない撮影ですから、現場は大変だったのでしょうねえ。また、井戸の水を飲んだぐらいで、射殺される砂漠の民の非情さは、わかっていても戦慄します。今も昔も変わらないような気さえします。
そのほか、主人公のロレンスが、死の砂漠の向こう側にある港町のドイツ・トルコ連合軍を破るために、不可能と思われる作戦を立案するシーンは、まるで救世主が神の啓示を受けるような描写ですが、自ら決死隊を組んで乗り込むというくだりは、まさしく戦争映画の王道です。
いやあ、この辺までは実に面白かったのですが、いざ港町の要塞への攻撃場面になると、カメラが町全体を俯瞰したままなのです。居間のテレビ画面では全くイケません。ラクダに乗った大勢の戦士たちが砂煙を挙げて攻め込んでいるのですが、神の目を持たない者には、ラクダも人も小さすぎてまるで見えません。やはり、この70mm映画は、劇場の大画面で見るべきものなのですねえ。家庭の小さなモニターで見るべきではありませんでした。残念です。まあ、いわゆる”戦争娯楽映画”ではないですからね、仕方ありませんね。
ところで、お話は全く変わるのですが、予約していた「DUNE/デューン 砂の惑星」のメイキング本がアマゾンから届きました。分厚い大型本なのに、段ボールでもなく、緩衝材もないただの薄手の厚紙封筒に封入してきたのに驚きます。輸送中の手荒い扱いのせいか、封筒の角がつぶれています。幸い、本体の角などは無事でしたが、アマゾンももう少し神経を使ってほしいものです。普通の雑誌や文庫本などの柔らかい紙の本と違って、こういう固い表紙を持つ大型本は値段が高いので、もっと輸送方法を考えてほしいものですねえ。
話がさらに横道にそれましたが、今回紹介したいのは、この本の内容です。映画に登場する宇宙船や衣装、セットなどのデザイン画とその製作過程等を集めた解説本になっています。前回のブログでも触れていますが、この映画の魅力はなんといっても、SF世界をリアルに見せた素晴らしい映像です。そして、それらの現実にはない架空のメカや習俗を造り上げたのが、類まれな想像力と卓越したデザイン力なのです。まず、前回のブログに引き続き何度もいいますが、なんといっても宇宙船のデザインが秀逸です。いままでに見たことのないユニークさですし、それでいて、この架空の世界によくマッチしています。それは、それぞれの背景をよく考え抜いた監督の指示によるそうです。
また、衣装などでも、デザインの製作コンセプトに関するコメントなどを読むと、シャーロット・ランプリング演じる帝国の女巫女の衣装をチェスのコマの形にしたのは原作者がチェス好きだから、というのには笑いましたが、それぞれのデザイン検討のイメージには、監督の細かな指示が付いています。例えば、悪役のデブは「地獄の黙示録」のマーロン・ブランドが演じたカーツ大佐のような陰影のある姿にするようにとの指示とか。そして、そんな監督のイメージを見事に実現するスタッフの技術力も高い。闇の中で顔が映り、長い裾がどんどん伸びて空中に浮かぶ姿はなんとも戦慄ものでした。
こういう様々なエピソードが豊富な図版や美しい写真とともに、カテゴリー別に記録されています。まさしく、映画の裏側、創作の過程を克明に記録した一冊の資料になっています。私にとっては、この本を手に取り、読んでいる(眺めている)間がまたとない至福の時間でした。日本語訳の出版、ありがとうございました。
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