竜とそばかすの姫
細田守監督のアニメ「竜とそばかすの姫」にはやや失望しました。なにしろ、傑作「サマー・ウォーズ」のようなインターネット世界を描く作品だったので、やや一方的な期待が過ぎたのかもしれません。
内容は、最先端のバーチャルな世界で大人気となる歌姫と田舎の写真とも見まがう写実的な風景の中で、母を失った女子高生のリアルな生活を対比させながら、ディズニーの名作「美女と野獣」をモチーフにした物語なのです。
冒頭の「U」というバーチャル世界は、「サマー・ウォーズ」のゲーム世界を思い出させますし、お得意のクジラも登場します。でも、この「U」のアバターたちはその別世界で何をしているんだろうと不思議でなりません。ゲームをする世界ではないので、才能があれば主人公のように歌姫になることも可能ですし、スポンサーが付けば自警団でアバターを解除するパワーまでも持てることは分かりました。でも、なんのとりえもない一般の参加者は、モブキャラとして何をしているのでしょうか、イマイチ不明です。それで50億人もの人が参加するのかなあ、と舞台設定でつまずいてしまいました。頭に”?マーク”がついたまま、途中から登場する妖精のようなAIやあんな立派な隠れ家の城などはどうやってできたの?などと思ってしまうのは、コンピュータ知識のない私だけでしょうか。まあ、こんな些細なことに気が向くのは”物語”に没頭していない証拠なのですが・・・。
さらに、現実世界の主人公の女子高生の行動もどうも良くわかりません。友人のお金持ちの娘の行動や近所のコーラスおばさんなどは、細田流の常連さんのキャラクターのような気がしますが、肝心の主人公の心理がさっぱりわからないのです。歌えなくなった歌声を取り戻していく過程は共感できますが、いきなり現れた”竜”に抱くあの”気持ち”はなんなのでしょうか? 普通そうした”感情”には、隠された”絆”や見えない”赤い糸”があると思うのですが、まったくそうではなかった彼の”正体”には裏切られます。しかも、現実世界での女子高生一人の思い付き行動は全く共感できません。結果を見ても釈然としません。一体全体、周りのコーラスおばちゃんたちの大人たちはなにをしているのですか!!ダメ親父も困ったものです。
やはり「美女と野獣」の物語は王子と村娘の恋の物語であるからこそ名作足り得ているのです。その肝心の”肝”がないのでは全くお話になりません。結局、消化不良で終わってしまいました。田舎の風景の絵柄が美しいだけに本当に残念でした。
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