七人の侍 ロケ地の謎を探る
黒澤明監督の不朽の名作「七人の侍」の舞台である”村”は、1カ所では監督のイメージに合う場所がなく、何か所かでロケをしたという逸話は、ファンの間では有名な話です。撮影は昭和28年5月ごろから始まり翌年3月まで行われたそうですが、そのロケ地の場所を黒澤明生誕110年、三船敏郎生誕100年の2020年を記念して探そうとした方が、今回、ご紹介する「七人の侍 ロケ地の謎を探る」書籍の著者なのです。
世の中、誠に奇特な人がいると感心したのですが、実は、この著者の方は元成城大学教授であり、2017年に成城学園が立地する東京の世田谷区成城・祖師谷・砧地区でロケをした映画を紹介した「成城映画散歩」を出版されています。
ご承知のとおり、この地区には東宝撮影所があって、当時は三船敏郎や黒澤明など多数の映画人が住んでおり、東宝の”農場オープン”や近くにあった里山などの自然風景、そして、成城学園や商店街等を活用し、ご存知「若大将」シリーズやクレイジーキャッツの映画などの撮影が頻繁に行われたそうです。
この辺のお話は、是非、前述の「成城映画散歩」をご覧ください。私家版だそうですが、アマゾンで購入できます。映画全盛時代のエピソードや黒澤明監督関係のこぼれ話が大変面白い読み物になっていますし、東宝撮影所に特化したいわゆる”郷土史家”の研究成果にもなっています。
それにしても、昔は、俳優の居宅もオープンですし、撮影所と地域の関係も何ともおおらかな雰囲気で、まさしく古き良き時代でした。いまの芸能ニュースなどをみると日本人の気質自体が悪くなったというほかないですねえ。
さて、前置きが長くなりましたが、「七人の侍 ロケ地の謎を探る」は、前述の”成城編”の続きとも言ってよいもので、”村”の中心部を撮影した成城のオープンセットはともかくとして、”村”の入り口や全景シーンなどは、御殿場や伊豆で撮影したそうですから、60数年後、ロケ地の場所を特定しようというのは、なんともとんでもない試みともいえます。
いま流行りの”聖地巡り”をするにしても、かつて「用心棒」の冒頭の三叉路のロケ地を紹介したネットを見たときに感じましたが、桑畑などの風景は一変していましたので、そう簡単にはわかるはずがありません。実際、著者が当時の記録を徹底的に調査し、グーグルの写真や山の稜線の形でひとつひとつ確認したという記述には本当に頭が下がりました。お疲れさまでした。
しかし、それ以上に驚いたのが、この本に掲載されている東宝に保存されていたという多数の撮影風景写真です。撮影の合間か、三船敏郎たちのすぐそばに看護婦さんたちが群がっています。どうやら近くの病院から見学に来たようです。本当に”距離”が近い。
また、冒頭の官兵衛と勝四郎を菊千代が追ってくる”坂道”は、意外に街の近郊だったそうで、黒澤流の映像のマジックにも感心しました。
さらに、オマケとして紹介している「椿三十郎」の三船が仲代を斬ったロケ地の特定、画面の反対側から撮ったリハーサルの写真の存在には著者同様に驚きました。海洋堂のオマケフィギュアはこの写真を参考にしたんだということがわかり、納得です(笑)。
いやはや、東宝さんも、これだけ大量の撮影風景写真を保存しているのなら、最近よく見かける怪獣映画関係写真集だけでなく、黒澤明の黄金時代の大型写真集を出版してほしいものです。待っています(笑)。以前発売された「黒澤明クロニクル」にはその一部が掲載されていたのかもしれませんが、生誕110年記念として是非やる”べし”。
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