フィラデルフィア物語
ロマンティック・コメディの代表的な女優としては、オードリー・へプバーン、マリリン・モンローの登場の前に、キャサリン・ヘプバーンを忘れてはいけません。なにしろ元祖スクリューボール・コメディ「赤ちゃん教育(1938年)」の主演女優です。ロマコメ歴代第5位(当ブログ2020.3.22参照)の「フィラデルフィア物語」の主演もこなしています。
この有名な「フィラデルフィア物語」は、これまで何度か観た覚えがありますが、どうにも内容を覚えておらず、DVDも持っていなかったので、今回改めて購入して観ることにしました。丁度バーゲン商品がありましたし(笑)。
お話は、社交界の華であるキャサリンが再婚することになったため、独占取材したい雑誌社が元夫のケイリー・グラントを使って、作家で記者のジェームス・スチュアートを前夜祭と結婚式に潜り込ませようとすることから始まる、元夫と婚約者、作家の恋愛喜劇です。びっくりするほどの豪華な顔合わせです。
観客は、婚約者が成り上がり者の嫌な奴であることから当然ながら離婚を悔やんでいるグラントを応援することになるのですが、初対面のスチュアートもなかなか頑張ります。もっとも、キャサリンの性格がよくわかりません(笑)し、愛人の元にいる親父、セクハラ全開の叔父、ませた妹役の子役(絶品)などいかにも上流階級という世界です。庶民のスチュアートに上級階級批判のセリフを言わせていますが、やっぱり一般大衆にはあこがれの世界なのでしょうねえ。贅沢な室内や調度品、建物やプールなどの豪華な世界は銀幕の世界そのものなのです。
それにしても、キャサリン・ヘプバーンという女優さんは、理知的で鋭い顔、細身で長身の体型、中性的でもありますし、運動神経の良さそうな機敏な動作など、なんとも”男前”なその姿はとても現代的です。当時のふくよかな感じの多い女優達の中では異色な存在といってよいでしょう。とても1940年公開の映画とは思えません。全く古びた感がないのに逆に驚きます。もっとも、黒人は一切登場しないのは時代なのですねえ。
ただ、元々が舞台劇のせいか、登場人物達はタバコとシャンパンを飲み続けながら、機関銃のような早口のテンポでセリフの応酬をしていますし、あいかわらずグラントは”何を考えているかわからない”風の十八番の表情ですから、なかなか登場人物達の心理がわかりません(笑)。でも結局は、キャサリンが泥酔して紆余曲折のうえ、最後はめでたく観客が望むハッピーエンドになります。
今回、DVDは一度も早回しすることなく楽しく観ることはできましたが、この作品がロマコメ史上第5位という評価は多分に映画史上の歴史的価値を加味しているのでしょう。様々なバリエーションが繰り返されてきた今となっては、最近、といってももう随分古くなりましたが、メグ・ライアンなどの一般大衆階級の作品の方がしっくりきます。
余談になりますが、今回購入した2枚組のDVDのボーナス・ディスクに収録されているキャサリン・ヘプバーンの伝記が非常に面白い内容でした。晩年のキャサリン本人が自分の生涯や作品の裏話を映像で解説するのです。彼女の話によると「赤ちゃん教育」はまったくヒットせず(漠然と当時の大ヒット作品と誤解していましたが・・)、その後、主演の舞台「フィラデルフィア物語」のロングランにより再び映画界に戻ったとのことです。しかも、交流のあった大富豪ハワード・ヒューズが映画化権をプレゼントしてくれたそうです。おかげで「風と共に去りぬ」の監督を首になった旧友のジョージ・キューカーを監督にできたということらしい。また、事実上のパートナーであったスペンサー・トレイシーとの関係(実はトレイシーの妻がいる)をあっけからんと認めるのは立派。でも、何故に名優とはいえあんな武骨な俳優さんが彼女の好みだったのだろう。当初は彼女からの一方的なアタックだったようで、蓼食う虫も好き好きとは誠によく言った格言(どうも失礼しました。)でした。
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