映画講義 ロマンティック・コメディ
久しぶりに面白い映画解説書を読みました。平凡社新書の「映画講義ロマンティック・コメディ」です。ハリウッド映画の王道ともいうべき”ロマンティック・コメディ”というジャンルをしっかり定義し、その歴史を俯瞰的にかつ簡潔に整理しています。なお、このロマンティック・コメディ(以下、ロマ・コメと略します。日本では全く使われないようですが、米国ではこの略語が使われているそうです。)というのは、今中高生の間で流行っているラブコメとは異なるものですので、お間違えの無いようにお願いします。
さて、ロマ・コメ映画の代表的な作品といえば、アメリカ映画界の権威筋が2008年にまとめた史上ベストテンによると、第1位「街の灯」以下「アニーホール」、「或る夜の出来事」、「ローマの休日」、「フィラデルフィア物語」、そして第10位が「めぐり逢えたら」となっているそうです。いずれも映画の中でも名作揃いですが、この中では私の好みとしては第4位と第10位ぐらいですか。個人的にはもっとミーハー的なお伽話が好きです。ビリーワイルダーの「昼下がりの情事」や「あなただけ今晩は」、あるいはサスペンスとのミックス型のヒッチコックの「泥棒成金」や「シャレード」、さらには「プリティ・ウーマン」や「ノッティィングヒルの恋人」なども捨てがたい。
この新書では、こうしたロマ・コメの歴史を無声映画時代から掘り起こします。ロイドやキートンのアクション喜劇までロマ・コメと断じているのも興味深いですが、トーキー後の作品について年代順にタイトル名と簡単なストーリー紹介を次々と紹介しているのが圧巻です。とにかく、ネタバレまでふくめて数多くの作品がこれでもかというぐらい列挙されているのが実にうれしいですねえ。まだまだ未見の作品が多いのだ(笑)。
ちなみに恋愛喜劇の歴史は1935年のスクリューボール・コメディの誕生以降、戦時中の停滞を除き、戦後のセックス・コメディ(1950年代)と続きますが、その後はナーヴァス・ロマンス(1970年代)とかネオ=トラディショナル・ロマンティック・コメディ(1990年代)などとやや訳の分からない変遷を経て、2000年代に多様化の時代になっていると解説しています。なお、ここでいうセックス・コメディとは際どいセリフのやり取りによる喜劇というもので、セックス描写はありませんので誤解のないように(笑)。
また、恋愛喜劇の作劇のパターンごとに様々なエピソード(小ネタ)を紹介しているのも素晴らしい。例えば、私のお気に入りのケイリー・グラントは上流階級あるいはそれに類する職業の主人公を演じ続けて独自の世界を作ったとか、あるいは清純な小娘のオードリー・ヘプバーンとゴールド・ディガー(財産目当ての娘)のマリリン・モンローの物語には共通の構造が見られるとか、さらには恋愛喜劇とは二人の間にある様々な障害、例えば婚約者の存在などを乗り越えて結ばれるお話であると喝破しているのがうまい。特に、こうした恋愛の障害となる善良な配役を”ベラミー”と呼ぶそうです。由来はラルフ・ベラミーという役者が同じような役を数多くこなしていたことからそういう呼び名になったそうです。背の低い俳優が乗る踏み台を早川雪舟に因んで”せっしゅう”という伝説と同じお話です。なお、このベラミーさんは典型的なロマ・コメのシンデレラ物語である「プリティ・ウーマン」で買収されかかった造船会社のいかにも人の好さそうなオーナーを演じていると紹介するのも楽屋ネタらしく好きですねえ。このほかにも、様々な考察が収められており、本当に楽しく読ませていただきました。
ただ、こうした記述の中でレックス・ハリソン主演の「殺人幻想曲」が未公開映画のような横文字のタイトルだったのがちょっと解せませんが、ロマ・コメのこれからについて、ラノベの「異世界転生もの」のハリウッド映画化まで言及しているのには感心しました。
今回は、本当に勉強になりましたが、まだまだ未見のロマ・コメも数多くありますので、メーカーの方には、是非ともDVD化をどんどん進めてほしいものです。ただ困ったことにクラシックな作品の中には、評価は高いものの現代感覚ではモラル上いかがなものかという内容でなんとも面白くもない作品が結構ありますので、そこが悩みの種なのです。できたら無料の動画配信が望ましいものです(笑)。
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