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2020年3月17日 (火)

ビバ!レオーネ

 昨年の2019年はイタリアの映画監督セルジオ・レオーネの生誕90年に当たるらしい。そのためか「ビバ!レオーネ」というわずか36ページですが、実にわかりやすい作品解説本が出版されています。
51u6zp2qydl_sy361_bo1204203200_  この監督についてはイギリスの批評家による「セルジオ・レオーネ 西部劇神話を撃ったイタリアの悪童」という399頁にもなる分厚い研究書があるのですが、購入したものの内容が2段組みで細かな活字がびっしり詰まった膨大な”論文”ともいえるような作家論であり、結局ほとんど読むこともないまま放置してしまっていたので、この冊子によって、マカロニウエスタンの巨匠としか承知していなかった映画監督の実像を初めて知ったような気がして、個人的には極めてありがたい書物となりました。

 ちなみに、この監督は60歳で急逝し、作品数も少なかったせいか、長い間低評価のままだったようです。まあ、私自身も黒澤明の「用心棒」の盗作である「荒野の用心棒」の監督というイメージがあったので、当初は悪い印象を持っていたのですが、マカロニウエスタンの傑作「続夕陽のガンマン」を観てからは、ご贔屓の監督の一人となっていました。そして、今回、まだ無名だったレオーネ監督がイタリアでの「用心棒」の初公開を観て感激し、友人たちに観ることを勧めたりした挙句に、結局自分で翻案物を作ってしまったというエピソードを読んで、彼の稚気が分かったような気がして最後のわだかまりもなくなりました(笑)。

 51sdb1d8p0l_sx331_bo1204203200_ さて、彼の本国で評価が低い理由はイタリアの映画を作っていない(西部劇はアメリカのお話)ということらしい(笑)のですが、ヨーロッパはともかく西部劇の本場アメリカではスパゲッティウエスタンという目で見られて、公開当時からまったく正当な評価を受けていなかったようです。
 しかも、大スターのヘンリー・フォンダやチャールス・ブロンソンを主演に本場で製作した「ウエスタン」についても、アメリカでは短縮版で公開されて散々な興行成績だったらしい。

 ただ「ウエスタン」をリアルタイムで見た私は、悪漢たちが駅で待っているだけの冒頭のシーンのアップとロングを使い分ける華麗な演出にひたすら感動した覚えがあり、淀川長治さんが悪役のヘンリー・フォンダの悪役ぶりを「ワーロック」を例に絶賛したことを記憶しています。もっとも、日本版も短縮版だったらしいのですが・・・。

 このアメリカでの興行成績の惨敗によって、レオーネ監督は一時引退まで考えたそうです。その後、評価が一変するのは、彼の死後かなり経って、前述の研究書が発表されて以降だそうで、ヨーロッパでの高評価がアメリカに伝播し、いまや押しも押されぬ巨匠になっています。「2001年宇宙の旅」と並び評されるという批評家もいるようですから驚きです。まあ、ヒッチコックへの評価と同じような経緯であり、アメリカのヨーロッパ礼賛の傾向は変わりませんね。もっとも舶来物に弱いのは彼の国だけではないですが(笑)。

 加えて、レオーネ監督のファンを自称するクエンティン・タランチーノ監督の常日頃のアピールの影響もあるとも言われています。ちなみにタランティーノは先般「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」を製作していますが、この作品はご存知のとおり「ウエスタン」の原題「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウエスト」をはじめとワンス・アポン・ア・タイム3部作へのオマージュです。
 このタランティーノ監督の新作のおかげで、不遇だった「ウエスタン」が原題でオリジナルの長尺版が公開され、アメリカでも大好評だったそうです。新作はともかく、さすがタランチーノです。そういえば、スチール版のブルーレイも発売されていますし、多分この冊子もその関連書籍なのでしょう。

 お話を戻しますと、この冊子のおかげでレオーネ監督の生い立ちもわかりました。監督デビューが「ロード島の要塞」という史劇ですが、その前に「ポンペイ最後の日」で急病の監督に代って演出したのが最初だそうです。もともと映画監督の息子に生まれ、イタリア史劇の脚本を書いていた頃にローマのチネチッタ撮影所で、ハリウッド大作「クオ・バディス」や「ベン・ハー」のロケ撮影を手伝っていたそうですから、”ハリウッド仕込み”のノウハウが彼の演出の原点かもしれません。後年のクリント・イーストウッド監督の名演出もレオーネ監督の演出に立ち会っていた経験からといわれるのも同じことかも知れませんねえ。

510vtdxgvol_ac_ul320_ml3_  ところで、これもこの冊子で知ったのですが、「サッドヒルを堀り返せ」というドキュメンタリー映画(2017年)があります。この作品は、「続夕陽のガンマン」のロケ地であるスペイン北部のゴルゴスにあるミランディージャ渓谷の周辺住民の活動を記録したものです。といえばおわかりのとおり、同作品の地元ファン達が1966年の撮影以来忘れられ埋もれていた、ラストの舞台である円形のサッドヒル墓地を発掘する記録なのです。早速、動画配信レンタル(550円)で見てみると、2015年に地元のファンが場所を発見し、50周年イベントに向けて20cmも土に埋もれた墓地を50年ぶりに発掘する感動作になっています。

 いい年のおっさん達が懸命に活動します。そして地元の呼びかけに応じてヨーロッパ中からファンが訪れ、ボランティアで聖地を掘りだす姿は同じファンとして感動します。また、墓標の製作費のために墓を売り出すアイディアも感心しました。それにしても、あの墓地が撮影のために作られたセットだったとは正直信じられませんでした。このDVDの説明によるとロケ隊と契約したスペイン政府が軍隊を貸し出したそうです。当時の兵士たちのインタビューも入っています。

 そして、50周年のイベントは、当時の編集者をイタリアから招いて、墓地での演奏会と即興劇と上映会です。ファンが4000人が集まり、上映会の冒頭にはエンリオ・モリコーネとヘビィメタル・バンドの「メタリカ」のビデオメッセージで大いに盛り上がりますが、しかし、サプライズで、クリント・イーストウッドのビデオメッセージが出た時には、スタッフが茫然自失。何も聞かされていなかったリーダーは泣いていましたよ。同じ映画ファンとしては、彼らには本当に敬意を表します。未見の方は是非ご覧ください。

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<追記>

 ロックバンドの「メタリカ」は、毎回自分たちのコンサートのオープニングに、エンリオ・モリコーネの作曲の「続夕陽のガンマン」のメインテーマ曲を使うというコアなファンだそうです。
 このテーマ曲は、映画の最後の決闘シーンで使われているのですが、実は完成済みの曲に合わせて、レオーネが演出したといいますから、やはり非凡な映画です。
 しかも、当時マカロニウェスタンの象徴であったモリコーネの映画音楽は、いまや本場を抜いて西部劇のサウンドトラックで人気第一位になっているそうです。思えば、この作曲家も無名時代に「荒野の用心棒」でセルジオ・レオーネ(同級生)と出会ってその才能を世界に示したのですから、縁とは本当に不思議なものです。いやあ、映画って本当に面白いですねえ。

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