ブライトバーン/恐怖の拡散者
「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」シリーズの監督ジェームズ・ガンが製作したという鳴り物入りのホラー映画「ブライトバーン」は、なんとも奇妙な作品でした。
お話は、アメリカの代表的なヒーロー、スーパーマンが実は悪人だったらどうなるのか、というアイディアを映画化したものです。カンザス州の”ブライトバーン”(架空の地名らしい)という田舎町に小型宇宙船が落下し、近くで農場を営む子どものいなかった夫婦が宇宙船の中に入っていた赤ん坊を育てているという、まさにスーパーマン誕生物語なのですが、思春期を迎えた少年は、何を考えているのかわからない根暗な性格となり、人間とのコミュニケーション力が欠如(エイリアンだから当然?)している上、感情のコントロールできない怪物となって目覚めた超能力で周囲の人間を次々と殺戮していくという展開なのです。
この少年のこわさは、超能力が無ければ、いまや本当にあちこちに存在していそうな”近所に棲む変質者”なのです。部屋に籠もって、悪夢のサインを描いたり、解剖写真を収集するなどの描写は、絵空事とは思えない程リアルな恐怖があります。まあ、ホラー演出自体は、昔ながらのびっくり音響と思わせぶりカメラですが、弾丸を跳ね返す強靭な肉体、物体を浮かす念動力、目からの熱線などの描写は、CGを駆使した見ごたえのあるモノです。特に、ほとんど一瞬で移動する映像やマントを翻して空中に浮かぶ姿は見事です。是非、あの技術で往年の名作SF漫画「8マン」を実写化してほしいものです。
しかし残念だったのは、殺す対象者が因縁のある同級生の母親や親族などの身近な普通の人々です。与えられた凄い超能力の設定から言えば、なんともつまらぬ相手です。牛刀割鶏の極みです。それを一人ひとりネチネチと変質者らしくいたぶり殺すのです。こうなるとホラーとしても演出の意図が不愉快ですネ。
ただ、この作品で、アメリカ人を凄いと感じたのは、普通のウエイトレスのおばさんでした。目玉に刺さったガラス片を自分で抜きながら戦おうとする姿勢や猟銃を渡してハンティングを教えようとする男親の姿など、ああ、西部開拓民の子孫だなあと感心しますし、自分の命は自分で守るという”強くハードな社会”に住んでいるのだと改めて教えられました。学校で対立する親たちの激しいディベートぶりも驚きです。のんびりと安全安心の国に住む日本人なら絶対できないですよねえ。グロテスクで悪趣味な人体破壊映像より、この辺が一番怖かった気がします。
一方、母親の子供に対する溺愛振りはどこも同じですかねえ。愚かしいというよりこれも考えようによっては怖いお話です(笑)。
それにしても、悪の異星人ならもっとバーンと派手に暴れてほしいものでした。欲求不満になりました(笑)。まあ、それは、これからのお楽しみという風に「オーメン」のように続編を作る気満々のラストですが、本当に肩透かしの作品でした。アメリカでも興行成績は芳しくないようですので、アレのその後の物語は日の目を見るのでしょうかね。あんまり期待できません。無料パスポートで良かった(笑)。
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