アルキメデスの大戦
山崎貴監督の映画「アルキメデスの大戦」については、なんとなく一種の食わず嫌いのような感覚があって、観に行くのをためらっていました。米軍の航空機によって撃沈されることは分かっており、敗戦後の大蔵省では”昭和の三大馬鹿査定”とまで呼ばれることになった戦艦大和の物語なのです。日本人としては映画を観終わって嫌~な気分に陥るのではないか、と心配していたのです。
ただ、長年のご贔屓の監督の作品でもあるし、お得意のCGによる戦闘映像を見るだけでも価値があるかなと、先日なんとか劇場に足を運びました。
映画の冒頭、いきなりの大和沈没のハイライトシーンには度肝抜かれました。大空を飛ぶ無数の米軍戦闘機から落とされる、CGで精緻に描かれた爆弾や魚雷の非道さには震えるばかりです。逃げることも避けることもできない”大和”はゆっくりとなぶり殺しのように無様に破壊されていきます。一方で艦砲射撃の砲弾は高速で動く飛行機には全く当たりません。必死で機関砲にしがみつく日本軍の兵士たちの姿が哀れで、時代遅れの兵器の建造や無謀な作戦を遂行した無能な軍令部に本当に腹が立ちます。日本の兵士をただただ無残に死なすのか、と。
それにしても、偶然(?)にしろ撃墜された米軍飛行機のパイロットを戦場の真っただ中で味方の水上飛行機が救助していくというこの彼我の差、この無念さはいったい何なんだ!!。
・・・だから見るのが嫌だったんだと思ったところで、戦艦大和が「タイタニック号」のように腹を上向けて”転覆”するのです。どうやらこれが大和の最後の真実のようですが、CG技術がなければ、いままでの砲煙だけが大げさな特撮では絶対表現できなかったのでしょうねえ。ここも驚きました。予想を上回る迫力です。さすが山崎貴監督率いるVFXチームです。
さて、物語は、その大和の最後から遡って、次期戦艦建造をめぐる日本海軍内部における巨大戦艦の建造推進派と航空機を主力に置く空母派による派閥争いが描かれます。菅田将暉演じる主人公は、帝大で100年に一人と言われた数学の天才であり、巨大戦艦の少なすぎる見積額の不正を暴くために、山本五十六にスカウトされるのです。この天才ぶりが可笑しいというか、上手いのです。この若手の俳優さんは何を演じても違う人に見えます。やっぱり、こういう人が演技派なのですねえ。
わずか2週間で、敵陣営からの嫌がらせや策略のせいで予算の見積をすることすら不可能な事態の中、天才ならではの彼の悪戦苦闘ぶりが面白可笑しく描かれ、すっかり引きこまれました。
そして、見せ場である予算決定会議席上、得意の数学の方程式を用いて数字のからくりを暴くのですが、敵もさるものとんでもない論法で開き直ります。敵側の造船将校田中泯の言い分は実に凄い。しかし、主人公も設計上のミスを喝破し、土壇場で逆転するのですが、映画はさらなる予想もしなかった展開で戦艦大和の建造へとつながっていきます。
この最後のしかけがなかなか興味深かったのです。よくこんなロジックを考え出したものと感心しました。原作の漫画にあるのでしょうか?なんかおかしいと思いつつ、日本人ならその位置付けと心情にすっかり騙されそうです。田中泯さんの重々しい演技が実に良く似合ってますし、ここがこのホンの最大の肝でした。いやはやなんとも・・あなどれませんねえ。
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