グリーンブック
アカデミー賞を獲った「グリーンブック」は、掛け値なしの良い映画でした。1960年代のアメリカの南部を演奏旅行した黒人ピアニストと運転手兼用心棒のイタリア人のロードムービーです。
映画自体は、娯楽作品としてもまことに上手く創られており、特に、ガサツで無教養で口の達者な、しかし、どっか憎めない運転手トニー・リップ役がなかなか笑わせ、泣かせてくれます。上映中どっかで見たことがある俳優だと思っていましたが、観終わってパンフレットを買ってから驚きました。まさか「ロード・オブ・ザ・リング」の人間の王アラゴルンを演じた俳優さんとは、絶句です。役作りで太ったせいか、顔も体型もまったく別人です。しかもデンマーク系といいますから向こうの役者さんは本当に凄いですねえ。ただ、パンフレットによると、イタリア人でないという理由で何度もオファーを断ったらしく、結局選んで粘った監督さんの目が正しかったということが証明されました。
しかし、この映画の真の価値は、ストーリーの巧みさや役者たちの達者な演技以上に、事実に基づいた物語だということにあります。わずか50年前頃、TVのホームドラマなどで私たちの憧れの的だったアメリカ社会の裏面がしっかりと描きだされます。白人社会の繁栄を底辺で支えていたのが奴隷だった黒人層だっだと改めて突き付けられます。しかもその黒人への差別の酷さは無法にもほどがあり、いや法でしっかり守られた差別が存在していたのですから、現在も根強く残っているのは当たり前かもしれません。日本人には日常的にあまりなじみのない露骨で暴力的な人種差別、そしてその差別意識を生み出す彼の地の強者の論理、歴史などには言葉もありません。エリートの黒人が目撃する深南部の農園の黒人達の姿は、幾多のセリフより説得力があります。実際のところ今のアメリカ南部はどんな風なんだろう。やっぱりトランプ大統領の支持層なんでしょうねえ。
しかも、世界ではそういう社会が依然として主流であり、ますます拡散しつつあるのが現実です。日本人のいわば鎖国で培われた純粋培養の倫理観など簡単に吹っ飛びそうです。もう随分タガが緩んでいますが、大丈夫ですか?・・・。その中で、娯楽作品として楽しめながら、人種差別を静かに指弾し、人間は分かり合えるものだと訴える映画が作られたのはやっぱり価値があることですし、今回アカデミー賞を獲ったことは映画界の良心の表れでしょう。アメコミ映画ばかりじゃア、イケませんね(笑)、自戒を込めてそう思います。
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