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2019年4月29日 (月)

ネットフリックスのドキュメンタリー考

 動画配信サイト、ネットフリックスのドキュメンタリーは、なかなか面白い特集を行っています。やはり映画関係が目につきますが、まずご紹介したいのが、「72/48」という作品です。内容はなんとヒッチコック監督の映画「サイコ」のシャワーシーンだけを題材にした、実にマニアックなものです。タイトルの意味は、あの衝撃的なシーンが72ショットと48カットで構成されていることから由来しているそうです。アルフレッド・ヒッチコックの監督自身でも、その作品でもなく、一つの作品のワンシーンだけが題材ですから、やっぱり眼のつけ処がユニークで感心します。映画こそがアメリカの伝統芸術という意識でしょうか、日本ではありえないですよねえ。

 出演者は、当時の証人として、シャワー室でナイフで刺される裸のジャネット・リーの代役だったヌードモデルが登場します。もう良いおばあさんですが、2週間かかった苦労話を披露します。そして、最近の映画監督やスタッフなどが、いかに当時「サイコ」が革新的な作品だったか、またカットの効果や意味を微細に論じ、その魅力を解説するのです。ほとんどが、既にヒッチコック解説書で承知のことですが、映像で丹念に見せてくれるのはなんとも素晴らしいものです。ただし、ヒッチコック監督お気に入りのタイトルデザイン担当のソール・バスにシャワー室殺害シーンの絵コンテを書かせて、その通り撮ったという話は初耳だったような気がします。

 さて、この「72/48」は上映時間は90分程度ですが、シリーズで長尺物もあります。「伝説の映画監督/ハリウッドと第二次世界大戦」という作品です。3話ものです。しかも取り上げるのが、名監督と呼ばれた人ばかりです。「駅馬車」や「荒野の決闘」のジョン・フォード、「ローマの休日」や「ベン・ハー」のウィリアム・ワイラー、「シェーン」のジョージ・スティーブンスなどです。しかも、解説がスティーブン・スピルバーグはじめ現役の有名映画監督たちですから凄いですねえ。

 いかに、第二次世界大戦にハリウッドが協力したか、その裏話です。人道主義のような気がしたフランク・キャプラが戦意高揚のための映画づくりの作戦参謀役だったそうで、なんかイメージが違います。当時の国民の厭戦気分を変えた立役者だったそうです。日本人のメガネと出っ歯のイメージ映画を作ったのもこの監督です。まあ、日本も当時は鬼畜米英と叫んでいたようですから、お互い様ですが・・。

 彼以外の監督たちは実際に戦線に従軍し、様々な映像を撮影したのですが、一番驚いたのが、迫力ある戦闘の映像は実は大半はやらせだったとのことです。戦闘が終わった地域で、再度、同じ攻撃をして撮影するのだそうです。しかも、兵隊たちには、わざとカメラを見て動くように指示したといいますから、芸がコマかいですねえ。そのほか、ジョージ・ステーブンスンは、気の毒に、ナチスのユダヤ収容所の発見に同行しており、後々の裁判のために、その悲惨な光景を一人(あまりに悲惨で助手はつけなかったそうです)で延々撮影したそうです。おかげで、戦後は、喜劇映画を撮れなくなったようです。また、ジョン・ヒューストンは、PDSTの若い兵士たちの記録を病院で撮り続けており、当時はそんなことなど判らなかった状況下での英断です。もっとも軍がお蔵にしてしまい公開されたのは随分後だったようですが、その意義は大きかったそうです。また、ジョン・フォードは、実際の戦闘の兵士たちが倒れる場面などを撮って、密かに持ち帰ったフィルムを自分で編集して試写したところ、あまりの悲惨さに軍のお偉方は上映途中で席を立ったそうです。本物の戦争がいかに悲惨であるかを映像にした最初のことかもしれません。

 まあ、この作品の意味は様々ですが、戦争に勝った国の意識はやはり敗戦国とは違うのかなあ、としみじみ思います。欧米では戦争が身近に現にあって将来もあるべきものとしてしっかり認識しているのがよくわかります。戦争をしなかった平成から令和の時代に変わろうとしている今、”戦争”は海の向こうの遠い国での出来事という意識をもうそろそろ変えていかなければならない時期になっているような気がして、心配です。年寄りの杞憂だと良いのですが・・。 

2019年4月28日 (日)

アベンジャーズ エンド・ゲーム

 「アベンジャーズ インフィニティ・ウォー」の続編「アベンジャーズ エンドゲーム」には、本当に参りました。指パッチンで全宇宙の人口の半分、地球のヒーロー達の半数を消し去った大風呂敷きの後始末をどうするのか、興味津々でした。まあ、多分、サノスからパワーストーンを奪い返して、もとに戻すのだろうと思っていましたが、いやはや、そんな予断は吹っ飛びました。開幕冒頭、全く思いもよらなかった驚愕の展開となって、もうお話はすべて終わったかのような絶望的事態に陥ってしまいます。初っ端から”この映画は一体どうなるんだ”とまで観客に思わせるのですから、これは凄い。

 そして5年・・・。普通ならここで「ネタバレになるのでご注意を」とかいいながら若干筋にふれるのですが、今回は、ヒッチコックの「サイコ」にも匹敵するストーリーに敬意を評して一切記載しません。是非、映画をご覧ください、なかなか楽しいですよ。

_new_1  それにしても、どうやってあんな筋立てを考え付くのでしょう。恐らくは、私がマーベル・コミック映画にハマった「キャプテン・アメリカ シビル・ウォ-」からの監督アンソニー&ジョー・ルッソの力でしょう。実はこの原作漫画には異なった作者による様々な原作があるようで、そのカオスの中から最良のものを抽出しているようにも思えます。とにかく脚本に脱帽です。予想を大きく超えたストーリーは本当に楽しいですねえ。

 また、ヒーロー達も普通の人間だというサム・ライミ監督の元祖「スパイダーマン」の精神は脈々と生きており、負け戦後のアイアンマンやハルクたちの生活ぶりの描写が実にいい。特に、ソーの体たらくはとにかく笑えます。クリム・ヘムズワースは見事です。まあ、このシリーズは、小ネタのギャグを散りばめてくるのがうれしいし、全編、とにかく、観客を楽しませようというサービス精神に感動します。ただ、日本アクション界の至宝をあんな役で使ってはいけません、唯一ここは残念な点でした。

 なお、前作で生き残ったヒーローたち、ほぼ第1期のアベンジャーズのメンバ-(都合の良いことに、新参のザコキャラは何故かみな消滅しております。もっとも版権のせいか元祖というべきスパイダーマンが死んだのは納得できませんが・・・)ですが、それぞれ大きな見せ場があります。しかもそこには懐かしい顔ぶれが次々と登場するのです。大スターも出ます。本当に上手いですよねえ、サービスのてんこ盛りです。また、前作に出番のなかったアントマンやホークアイも大きな役割をもって帰ってきますのでご心配なく。

 そして、もちろん最後はお約束のとおりヒーローたち全員(例外も1~2人いますが)が勢ぞろいし、ダメ押しの大戦争です。いやあ、満腹、眼福でした。しかも、さらに食後の甘いデザートまで用意されており、至れりつくせりのおもてなしでした。御馳走さまでした。まあ、とんでもない大風呂敷をきちんと畳んで、第1作のアイアンマン(サム・ライムのスパイダーマンは別会社の製作)からのシリーズは、誠に見事に大団円を迎えました。お疲れでした。

 余談ですが、最後のエンドロールのCGスタッフの多いことに驚かされます。画面が名前で覆いつくされるのです。彼らの人件費だけで、いかに巨額のお金がかかっているかがわかります。いや、マーベル・スタジオの力に敬意を表します。

2019年4月27日 (土)

Yonda?トートバッグ

 新潮文庫の売り上げ増進キャンペーン「Yonda?」を覚えていますか?新潮文庫に付いていたマークを集めて応募すると、キャラクターのパンダの縫ぐるみやピンバッジなどの景品がもれなくプレゼントされるもので、1998年から2014年まで続いていたようです。

20190421_102320  10年ほど前、職場の先輩から、この景品のトートバックをいただいたのですが、女房がいたくお気に召して、以来、スーパーなどの日常的な買い物には、必ずそのバック持参でした。さすがに10年毎日使っていると、バッグの縁が傷んだようで、少し前から買い替えも考えているようでしたが、女房に言わすと、そのサイズが絶妙に使いやすく、なかなか代替品が見つからないというのです。

 ここで、今はやりのメルカリを覗いてみますと、新潮文庫キャンペーンの景品の出点はかなりの数あります。お目当てのバッグもありました。驚いたことにビニール袋に入ったままの未開封の新品まであります。しかも1000円前後のお手頃な値段です。すわ、購入と思ったものの、残念ながらすべて売却済みでした。遅かりし何とかですが、こういった流通に乗らないものまでネットで手軽に購入できることには感心します。一方で、このように素人が気軽に販売できるメルカリの普及のおかげで、街の古物店に品物が出回らなくなって困っているというニュースも聞きました。

 しかたがないので、ネットオークションを探すと、なんという幸運でしょう、丁度、新品未開封のトートバッグが800円で出品されています。早速入札したのですが、これがイケません。競争相手が出現してどんどん値段が吊り上がります。この辺が、即売価格のメルカリとの違い、人気の差が出たのでしょう。送料込みも手間が省けてうれしいものです。とはいっても、私が注目するジャンルのメルカリ商品は、総じて値段設定が高すぎますゾ。

 少しお話が脱線しましたが、お目当てのトートバッグはなんとかゲットして女房にプレゼントしたのですが、女房はいまだに前のバッグを手に下げています。どうやら、次のストックができたせいか、あるいは単にもったいないのか、まずは現バッグを使えるだけ使おうという気らしい。まあ、いいけど。

 それにしても、人はそれぞれ思いもつかぬものを大事に保管するものだし、そして、昔なら出回らないものが簡単に手に入る便利な世の中になったものだとつくづく思いました。これが、日本人が世界に誇る”もったいない”精神なのでしょうかねえ。

2019年4月25日 (木)

翔んで埼玉

 ”自虐ギャク”は嫌いではありませんというか、結構好きです。「砂場はあるが、スタバはない」などの某県知事の自虐ネタには大いに感心しました。自らを客観的に見て笑える余裕が大好きなのですが、映画「翔んで埼玉」はあんまり笑えませんでした。評判が良かったので期待が大きかったせいかもしれませんが、なにより私は”埼玉県人”ではなかった(笑)のです。・・自虐ネタにならなかった???

 それにしても、”都市伝説”としてGACKTと二階堂ふみが演じる宝塚風一大コスチューム宮廷劇、架空の悪趣味なキンキラ都庁、関所で閉ざされた埼玉や千葉の寒村風景の設定、芝居小屋風時代劇調の大げさな演技などにはやっぱり馴染めませんでした。しかも「草でも食わせておけ」という決めセリフにも笑いが出ませんでした。どうにも微妙に私のツボが外れるのです。ましてや伊勢谷友介とGACKTのふみの悪夢は役者根性は立派ですが、やり過ぎです。

 一方、この”都市伝説”を紹介するラジオ放送を聞いているドライブ中の夫婦と娘のほうが何倍も笑えました。ブラザートム演じる埼玉県人の歪んた郷土愛、それを笑いながら宥める妻、麻生久美子が演じるのですが、いざ千葉県が貶されると豹変して、車を降りての夫婦バトルになります。妻は千葉県出身だったのです(笑)。さらに、劇中の主人達が愛を確かめ合うシーンでは、車中の夫婦が感激してもらい泣きしている側で「ボーイズ・ラブだし」と斬った娘のシラケ方に思わず吹き出しました。ここが一番(笑)。

 ラストは、埼玉県への配慮でしょうか、埼玉県のPRのオンパレードでした。これで埼玉県知事もお喜びでしょう。ヒットもしているようですし、めでたし、めでたしです。

 さて結局、個人的には”海なし県民”の悲痛な思いがわかったような気がして終わったのですが、映画本編ではなく、クロージングで流れるはなわの「埼玉県の歌」に大笑いしました。終わりよければすべて良し、なのです。はなわは、佐賀県出身ですが、くれよんしんちゃんの春日部市で育ち、埼玉県を愛する人だそうです。さすが、昔、ヒットしただけのことはありました。

2019年4月14日 (日)

続「黒澤明DVDコレクション」

 黒澤明の作品のDVDと解説書がセットのシリーズ「黒澤明DVDコレクション」が全作品を網羅し、全30巻でやっと終了したと思ったら、続巻が開始されました。

 驚くなかれ、黒澤明が若い頃に書いた脚本で映画化された作品をDVD化するとの企画です。既に、第31巻「馬」から第33巻「ジャコ萬と鉄」まで発刊されています。予定を見ると、以前から見たかった戦国合戦ものの「戦国無頼」や「戦国群盗伝」、あるいは加山雄三主演の「姿三四郎」など、ほとんどが初DVD化で、いやビデオにもなっていなかったので、今まで見たくてもなかなか見られなかった幻の作品ばかり10巻です。まったく、なんて商売がうまいのでしょう。月2回の発売です。困りましたが、しかたありません、購入するしかありません。

_0003  というわけで、続巻第1号は、初DVD化の山本嘉次郎監督の「馬」です。主演は高峰秀子の少女時代の作品で助監督だった黒澤明との恋が発覚して大騒ぎになったそうです。「助監督あたりにはやれん」といった人は後でどんなに悔やんだんでしょうねえ(笑)。大昔、テレビで見て記録映画の様な作品だという記憶がありますが、とにかく農村での長期のロケを敢行しているもので、当時の農村の生活や風景が見事に記録されています。春から大雪の冬までの長期撮影した作品づくりは昔の日本映画もまんざらではないと思えます。それにしても、当時の農家の暮らしは確かに貧しいものですが、家族も馬も背一杯生きている感じが立派ですねえ。それに演技とはいえ、いまや失ってしまった日本人の古き良き心根が残っているような気がします。いい映画です。

_0002  第3号は、谷口千吉監督の「ジャコ萬と鉄」で、この作品も、当時のニシン漁の記録映画的な漁村風景や漁師たちの姿は格別です。後に高倉健がこの作品と三船に惚れ込み、再映画化しています。こちらの方は見ていましたが、オリジナルは今回初めてです。主演の鉄を演じた三船敏郎が若いし、とにかく豪快で颯爽としています。教会のピアノを弾く少女に毎週末に犬ぞりに乗ってこっそり会いに行く純情も、南方で習ったという奇天烈な”踊り”も抜群です。黒澤明作品以外でもなかなかやるじゃないかと感心しました。また、ライバルのジャコ萬は月形龍之介が演じており、元祖「姿三四郎」の桧垣源之助のような凄味を漂わせています。さすが黒澤の脚本だけあってまことに面白かったのですが、監督の谷口千吉は、黒澤とは山本嘉次郎監督の兄弟弟子で当初アクション映画の新鋭と言われていたものの、この後、八千草薫との不倫が発覚して以降、どうもパッとしなかったようです。このことは添付の解説本の記事に書かれていたのですが、よく考えると意地悪で変わった監督紹介ですね。

 さて、今後の一番の楽しみといえば、加山雄三の主演の「姿三四郎」です。一度、名画座で見たことがありますが、当時は、黒澤明の作品なども観る機会がほとんどなく、黒澤関係”本”で知った”下駄のエピソード”などをなぞった場面に頭で感動して観たような気がします。モノクロの映像からか、何故か岡本喜八作品と思いこんでいたのですが、実は内川清一郎というあんまり知らない監督さんであり、実際の喜八版は随分後年の三浦友和主演の作品でした。で、この加山雄三版が本当に面白かったかどうか確かめたくて、初DVD化に期待しているのです。

 なお、この10巻をまとめるブックケースが別売であるのですが、本編用を流用した15巻入れなのです。ということはあと5冊、何を出してくるか、いまから楽しみにしています。朝日新聞出版さん、是非サプライズをお願いします。

 

2019年4月13日 (土)

ダンボ

 アニメの「ダンボ」を実写映画化するなんて、ウォルト・ディズニーも何を考えているのでしょうねえ。正直、監督がティム・バートンでなければ、映画館に足を運んでいなかったでしょう。

_new   映画は、冒頭のうらぶれたサーカス団のセットや美術がさすがバートン監督らしい見ごたえのある映像になっています。20世紀初頭の風景を古い写真で記憶にあるような生活感溢れるリアルさで描き、サーカス団のペンキが剥げかけた絵看板や蒸気機関車の正面の”顔”のデザインなどには監督ならではのセンスが光っています。でも、正直、楽しめたのはそこまででした。

 戦争で片腕を失った父親とインフルエンザで母を失った姉弟、母親象を売られたダンボ、くしゃみで飛ぶ奇跡のショーも今一つしっくりきません。さらに、マイケル・キートン扮する敵役の大興行主の登場、夢の遊園地ドリームランドでのショーもなんとなく盛り上がりません。小象が耳で飛んでる姿にはやっぱり違和感があります。・・当たり前か(笑)。

 しかしそれ以上に、後半の展開がまったく納得できません。以下、ネタバレがありますので、未見の方はご注意ください。

 まず、第一に、大興行主の行動がどうにも意味不明です。一代で夢の国を造り上げたやり手の筈なのに、ダンボがショーを抜け出たトラブル程度で母親象を殺そうとしたり、腹立ちまぎれに無茶な機械操作したりするのです。その結果、ドリームランドは灰燼に帰すのですが、どうにも筋立てに無理があるように思えます。そしてあまりに悲惨すぎる幕引きです。思わず同情してしました。どうもこの脚本家には象を殺そうとするような人間は徹底的に懲らしめなければならない、というような強い信念を持っているような気さえします。一方で、ダニー・デヴィート扮するサーカス団長は、同じ穴の狢の筈なのになんのお咎めもありません。それどころか、銀行家の融資も多分受けたのでしょう、”バットマン”は滅び、”ペンギン”は栄えるのですから、どうも納得できませんな。

 そして、なにより中途半端なのがラストです。ダンボを母象と一緒に故郷のアジアに帰そうというのはわかりますが、あの船賃は誰が出したのですか?失業中のサーカス団員ではとても無理でしょう。この脚本家は”シネマの神は細部に宿る”という鉄則を忘れています。こういう小さなことが気になると観客は現実に引き戻されるのです。しかも、あの頼りないヘビ使いのインド人がよく無事に連れ帰りました。普通に考えると、悪そうな船員たちにダンボを奪われそうですが・・。ともかく、ダンボ親子は、奇跡的にジャングルの象の楽園に到着し、映画は終わります。・・・でも、ここからがさらに気になります。空飛ぶ象がいるなんて知られると、あっという間に密漁者の餌食になるとおもうのが普通です。可哀想にダンボは捕まって、映画で描かれたサーカスより何倍も悲惨な見世物になるのは必定です。いや、それ以前に、仲間の象に受け入れられず踏みつぶされてしまう等々、そういう妄想が次々と浮かびます。

 王子様と結婚してめでたし、めでたしという能天気なおとぎ話は古くさくていまや通用しません。現在のお伽話は、王子様と結婚した後の顛末をしっかり描いてこそ、価値があり夢があるのです。やっぱり、この脚本は大事なところを間違えているような気がします。結局、バートン作品としては「猿の惑星」なみの残念な作品になりました。なんでもかんでも実写版が良いわけではありませんねえ。

2019年4月 7日 (日)

グリーンブック

 アカデミー賞を獲った「グリーンブック」は、掛け値なしの良い映画でした。1960年代のアメリカの南部を演奏旅行した黒人ピアニストと運転手兼用心棒のイタリア人のロードムービーです。

_new_0002  映画自体は、娯楽作品としてもまことに上手く創られており、特に、ガサツで無教養で口の達者な、しかし、どっか憎めない運転手トニー・リップ役がなかなか笑わせ、泣かせてくれます。上映中どっかで見たことがある俳優だと思っていましたが、観終わってパンフレットを買ってから驚きました。まさか「ロード・オブ・ザ・リング」の人間の王アラゴルンを演じた俳優さんとは、絶句です。役作りで太ったせいか、顔も体型もまったく別人です。しかもデンマーク系といいますから向こうの役者さんは本当に凄いですねえ。ただ、パンフレットによると、イタリア人でないという理由で何度もオファーを断ったらしく、結局選んで粘った監督さんの目が正しかったということが証明されました。

 しかし、この映画の真の価値は、ストーリーの巧みさや役者たちの達者な演技以上に、事実に基づいた物語だということにあります。わずか50年前頃、TVのホームドラマなどで私たちの憧れの的だったアメリカ社会の裏面がしっかりと描きだされます。白人社会の繁栄を底辺で支えていたのが奴隷だった黒人層だっだと改めて突き付けられます。しかもその黒人への差別の酷さは無法にもほどがあり、いや法でしっかり守られた差別が存在していたのですから、現在も根強く残っているのは当たり前かもしれません。日本人には日常的にあまりなじみのない露骨で暴力的な人種差別、そしてその差別意識を生み出す彼の地の強者の論理、歴史などには言葉もありません。エリートの黒人が目撃する深南部の農園の黒人達の姿は、幾多のセリフより説得力があります。実際のところ今のアメリカ南部はどんな風なんだろう。やっぱりトランプ大統領の支持層なんでしょうねえ。

 しかも、世界ではそういう社会が依然として主流であり、ますます拡散しつつあるのが現実です。日本人のいわば鎖国で培われた純粋培養の倫理観など簡単に吹っ飛びそうです。もう随分タガが緩んでいますが、大丈夫ですか?・・・。その中で、娯楽作品として楽しめながら、人種差別を静かに指弾し、人間は分かり合えるものだと訴える映画が作られたのはやっぱり価値があることですし、今回アカデミー賞を獲ったことは映画界の良心の表れでしょう。アメコミ映画ばかりじゃア、イケませんね(笑)、自戒を込めてそう思います。

 

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