アクアマン
ジェームス・ワン監督の映画「アクアマン」は、予想を上回る痛快活劇でした。もともと、このマレーシア出身の監督が演出した「ワイルド・スピード スカイミッション」が、シリーズ最高の出来だったことから密かに注目していました。実は、私が怖くて見ることができない「ソウ」や「死霊館」などを世に送り出した、アイディアとセンスあふれる監督ですから、当然かもしれませんが、今回の内容も、娯楽映画の要素をこれでもかと云う程盛り込んだ、故黒澤明が言う、”ビフテキにバターを塗って蒲焼を載せた”ような豪華な作品でした。

しかも、人物造形が素晴らしい。ジェイソン・モモア演じる主人公のアクアマンことアーサー・カリーは、粗暴でとっつき悪く見えながらユーモア溢れる大男という、アメコミ原作とはまったく異なる設定だそうです。アメコミでは、逆に、映画では敵役の異父弟の金髪の白人というイメージだそうで、それはもはや現在の時代に合わないだろうとハワイ人との混血の大男のモモアを「ジャスティス・リーグ」から抜擢したそうです。これは製作首脳の慧眼です。個人的にも「アルゴ探検隊の大冒険」に登場するポセイドンにそっくりですので大歓迎です。加えて、口の悪さや細かいことを気にしない態度はモモアの持ち味と凄味によくマッチし、なぜか黒澤明やジョン・フォードの映画の空気を感じました。豪快な男っぽさの演出がうまいのです。
ヒロインのメラ役のアンバー・ハードも素晴らしい。勝ち気で戦闘能力をもった姫役がよく似合っています。ディズニーアニメの「人魚姫」をイメージしたかのような色彩のスタイルも良い。しかし、あの「ラスト・ミッション」の女上司役の女優さんとは全く気が付きませんでした。いやあ女は役柄で印象が一変しますねえ。
さらに、宿敵”ブラック・マンタ”も面白い。船を襲って皆殺しを稼業にする海賊が自分の親の死には復讐を誓う、犯罪者の手前勝手さや執念深さを実にうまく描いています。いや、それよりなにより、あのアトランティスの技術をつかって改造した戦闘服のレトロなデザインが秀逸です。改造する光線銃の威力に驚き、「大きい目玉がいるなあ」と呟かせての、遮光器土偶の様なヘルメットです。大きな目玉から、昔懐かしの2本線の長い連続光線を発する絵(SWから断続的な短い光線が主流になりました。)には感動しました。
特に、あのシチリア島の町でのアクションは大傑作です。それぞれ屋根の上を逃げるモモアとメラを追いかけるブラックマンタと海底人の追撃シーンは、アクロバット的な動きと光線銃の弾道(?)や爆発が一体化し、見事としか言いようがありません。007映画以上にド派手ですねえ。
そして、ラストは、海底王国同士の戦争です。人間型のアトランティス王国と人魚型の魚人王国、それに対する蟹のような甲殻王国との大合戦は、巨大な戦闘戦艦や様々な形のサメやタツノオトシゴ、巨大甲殻類に騎乗する兵士たちの大合戦です。アノマロカリス型潜水艇もグッド・デザインです。
言い忘れていましたが、第2シーズンのSWのような美し過ぎる海底風景も、「王族には深海も見通せる能力がある」というたった一つのセリフで、観客に説得力を持たせた演出には感心しました。やっぱり、ジェームス・ワン監督は只者ではありません。
それにしても、最後の最後には、巨大な怪獣を登場させるし、ニコール・キッドマンをアトランナ女王に起用したのも素晴らしい。ウィレム・デフォーの侍髷もいい。人形アニメ「マッド・モンスター・パーティ」に登場する「大アマゾンの半魚人」風モンスターのトレンチが無数に登場したのも、私好みで楽しい限りです。しかも、全体的に海洋民族の血や雰囲気を感じさせてくれたのも嬉しいことです。
ジェームス・ワン監督、とつてもない完成度の高い、痛快な活劇フルコースをありがとうございました。ほかにも言いたいことは沢山ありますが、紙面の関係もありますので、とりあえず、この辺で、サヨナラ、サヨナラ。
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