ヨーク軍曹
最近は、劇場に行く機会も減って(見たい映画が余りない・・)、自宅でDVDを見るのが日課になっています。
新作のレンタルでは「ワンダー/君は太陽」に感心しました。けっこう重いテーマなのに明るく希望に満ちた演出が心地良い。ハリウッドの良心を感じます。
しかし、「それはまた別のお話」ということで、今回は古典「ヨーク軍曹」について少しご紹介します。VHSを所有しているのですが、先日DVDの中古品を安く購入したので、久しぶりに観たのです。
監督は、ご贔屓の名匠ハワード・ホークスで、主演のゲーリー・クーパーはアカデミー賞の主演男優賞を獲得しています。いわば、その年の傑作と評価された作品なのです。
物語は、テネシー州の田舎の貧農の長男で、飲んだくれの暴れん坊という嫌われ者が、ある日、雷に打たれて、奇跡的に助かったことから、敬虔なキリスト教徒に生まれ変わる前半から、徴兵されて送り込まれたヨーロッパ戦線で、持ち前の銃の腕前をいかして、大活躍をする後半までホークスの手堅い演出で見せます。
モノクロで絵のようなセットをはじめ、主演のゲーリー・クーパーの朴訥さや恋人の生き生きした表情がなんとも味があります。厳格なお母さんも、気のいい牧師さんもいいねえ。お話としては、実に面白いのです。
しかし、この作品の肝は「汝殺すことなかれ」という教えを守る主人公が、いかに「国を守るため」に戦ったのか、がテーマになっています。
出兵前、悩む主人公が裏山に登り啓示を受ける場面など、モーゼの十戒になぞらえた宗教映画の様相も呈しますが、製作が1941年という、太平洋戦争が開始される時期ですので、実際は、戦意高揚映画であり、第二次世界大戦への参戦のためのプロパガンダ映画なのでした。
しかも、ホークス監督の演出があまりに見事なので知らぬ間に引き込まれます。戦場のシーンは、大規模で迫力満点の映像なのですが、七面鳥猟のようにドイツ軍の兵士を次々と射殺していく場面は後で考えるとなかなか恐ろしいものがあります。
結局、主人公は戦場では仲間の死に怒り悲しむ一方、仲間を守るために敵には容赦しません。また、映画の中では良心の呵責も描かれません。
まさしく国を、同胞を守る大義が高らかに描かれています。当時の世相を反映したものでしょうねえ。 ”良心的兵役拒否者”に対する回答なのかもしれません。(最近の映画でもありましたが・・。)
まあ、さすがに職人といわれるハワード・ホークス監督だけあって、スタジオのどのような要求にも見事に応じる仕事をしました、というべきでしょうか。
それにしても、名声を得た人間には富(誘惑も)が自然に集まってくるというのは、アメリカらしいというか、寄付パーティー文化なのでしょうか、向こうのタニマチは凄いですねえ(笑)。結局、主人公が数ある都会の誘惑をものともせず、田舎での家族たちとのまっとうな暮らしを選んだのは何よりほっとするラストです。
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