第90回アカデミー賞のメイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞した「ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男」のゲイリー・オールドマンのメイクアップを担当した日本人の特殊メイクアップアーティスト辻一弘氏の自伝「顔に魅せられた人生」が発売されました。
やはり、ハリウッドのアカデミー賞の威力は凄まじいものがあります。俳優なら賞を取れば、ギャラが跳ね上がると聞いていますが、いつもは縁の下のスタッフでさえ、一躍脚光を浴びます。
今回は、日本人初(アジア人でも初)ですから、日本で関連本が出版されてもおかしくはありません。
実は、このアーティストのことは前から知っていました。
というのも、この人の師匠がハリウッドのメイクアップ界の大御所のディック・スミスなのです。え、知らない?エイプ(猿)で有名なリック・ベーカーの師匠で、エクソシストやゴッドファーザーなどの老けメイクなどの仕事は伝説となっています。
しかも、この方は、自分が開発した技術をすべてオープンにして後輩の育成に努めたという立派な方なのです。
この恩師ディック・スミスの80歳の誕生日に、実物大の2倍のサイズの顔の彫刻を作って、サプライズイベントにしたそうです。
その彫像と本人が並んでいる写真を私は雑誌で観たことがあったのです。
その写真のインパクトは強烈で、製作者が弟子の日本人と聞いてさらに驚いたことがあります。その日本人が辻一弘さんでした。
この本によると、この彫像を見たディック・スミスは、「なんと美しい」と涙を流して喜んだそうでして、あまりの出来の良さに、メイクアップのトレードショーに展示するや評判が評判を呼んで、いまや現代アートとして作品を生みだしているそうです。代表作が、リンカーン大統領、アンディ・ウォーホルやサルバドール・ダリなどだそうです。
辻さんの人生は、日本に居るときから、ディック・スミスと文通して認められ、ハリウッドに呼ばれて、リック・ベーカーと一緒に仕事をしたという輝かしい経歴です。もちろん、英語もカタコトであり、朝から晩まで仕事して大変苦労したそうですが、その挑戦は本当に立派としか言いようがありません。こんな日本人も居るのだ。これからは、やっぱり、一度は海外生活を知っておくべきでしょうねえ。
しかし、いまやCGの進歩でメイクアップの世界も厳しくなっているそうで、ディック・スミスもリック・ベーカーも引退し、辻さん自身、ハリウッドから離れたそうですが、今回のアカデミー賞は、主演のゲイリー・オールドマンのたっての願いを特別に引き受けた結果だそうです。
ともあれ、この本は、そうした成功物語というよりは、エピローグの「夢を追いかける人に覚えていてほしいこと」の中で掲げられた人生訓のような言葉がかなり心を打ちます。当たり前のようですが、とってつけたものではなく、本当に実体験から生まれた言葉には重みがあります。伝記嫌いの私ですが、このエピローグに一番感動しました。「可能なら海外で1か月以上暮らすこと」などなど。
いやあ、この本は買ってよかった(笑)。未読の方は、ディック・スミスの実物大の2倍の彫像の写真だけでもご覧ください。本人と並んでそっくりですから驚きますよ。しかも2倍の迫力は凄まじいです。実物はまだ凄いのでしょうねえ。まさしく現代アートです。日本のどこかの美術館で展示しないかなあ。待っています(笑)。
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