自他ともに認めるモンスター・オタクのギレルモ・デル・トロ監督の新作「シェイプ・オブ・ウォーター」は、アマゾンの水棲人間と女性の愛の物語でした。
アマゾンの水棲人間というと、いうまでもなく、1950年代の代表的なモンスター映画「大アマゾンの半魚人」が有名です。
水着姿で泳ぐジュリー・アダムスに恋した怪物(半魚人)は、異形ゆえに報われることなく、身を亡ぼすという、定番の「美女と野獣」系の怪奇映画でした。
この50年代の映画に初めて登場した半魚人のデザインと造形が秀逸で、ギルマン(鰓人間)と呼ばれ時代を超えた人気を誇っています。アチラでは、このフィギュアやスタチューが今でも生産され続けています。
あの黒い淵を自在に泳ぎ回ったリアルな水棲クリーチャーに匹敵する着ぐるみは、これだけ素材やCG技術が進歩した今日まで、いや、この作品まで登場しませんでした。
そう、今回の映画は、6歳の時に見た「大アマゾンの半魚人」の恋をかなえたかった(パンフレットの記述)というギレルモ監督の”夢”の実現なのです。
それだけに、半魚人のデザインは、凝りに凝っており、オリジナルのスリムなスタイルを生かした、納得のゆくデザインです。
そのうえ、顔の隈取、目、鰓、体表の処理など生物感溢れる造形は、芸術的でお見事としか言いようがありません。しかも、発光機能まで追加しており、やっと、21世紀の半魚人といえる水棲クリーチャーが登場しました。はやくフィギュアが発売されないかなあ(笑)。
さて、お話は、米ソ冷戦の60年代、アメリカの海辺の田舎町にある政府の秘密研究所に、南米で捕獲された水生生物が軍事研究ために運び込まれます。
今回の主人公は、美女でもお姫様でもなく、その研究所で働く口の聞けない中年女性の清掃員なのです。しかも、映画館の2階のアパートにひっそりと住んでいます。付き合いは、隣の売れない老年の画家(ゲイらしい)と、同じ清掃員仲間の黒人女だけです。
クリーチャーの創造と併せ、特筆すべきは、研究施設や主人公のアパートの装飾などのセットのリアルさです。レトロで冷戦時代という暗い時代の雰囲気を良く描いています。
また、研究対象である水棲人間を電撃棒でいじめ抜くのが警備担当のサディストのような軍人です。屈強な体型をして力こそ全てと信じている白人の大男です。新「スーパーマン」のゾッド将軍を演じた俳優なので顔も言動も怖い怖い。
もっとも、そんな男も、家庭では、郊外の一軒家で、テレビや冷蔵庫、キャデラックを持って、二人の子供の良き父親として、バービー人形の様な金髪の奥さんと幸せそうに暮らしています。昔テレビで見た60年代のアメリカの豊かで幸せそうな家庭の風景です。半世紀も前のあの大型のキャデラックは、まさしくアメリカの富の象徴ですねえ。改めて思います。
ただ、今回、驚愕したのは、この映画のストーリーが単なるファンタジー映画では終わらなかったことです。従来の「美女と野獣」というお伽噺の範疇を一気に超え、人間と非人間とのセックスまでしっかり描いた作品なのです。
冒頭、独身の中年女の秘めたる行為をしっかり見せたり、典型的な家庭内のハードなベッドシーンなど、人間の生活の裏側まで生々しく描きます。
一方、怪物とのセックスは、逆にさらりですが、性器の形状へのセリフ説明まであります。子供向けではなく大人向けの寓話を目指した、にしても、異形とのセックスは、人の形を模した神を崇める主流派のタブーだけでなく、やっぱり驚天の展開です。本当にモンスターファンの私にしても驚きました。生物学的におかしいとかは別ですよ(笑)。
ただ、考えてみれば、この映画は少数=異形の者への愛情を描いたものであり、現在のアメリカ社会への痛烈な批判なのでしょう。障害者、女性、黒人、ゲイ、・・・怪物、こうした差別を受け続ける少数派の弱い立場の人々の声を代弁しているのです。
モンスター映画と馬鹿にすることなかれ、一度、是非ご覧ください。人間とはどういう生き方をすべきか、考えさせられます。
実は、このオタク監督の一連のモンスター作品については、「パンズ・ラビリンス」をはじめ、「パシフィック・リム」も含め、「ミミック」以外はあまり好みではなかったのですが、この作品は高く評価したいと思います。
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