無限の住人
不死身と聞けば、古くは、「伊賀の影丸」のライバル天野邪鬼、そして、そのオリジナルの山田風太郎作「甲賀忍法帖」の薬師寺天膳が思い出されます。
そのほか、「あしたのジョー」の力石徹に打たれ続けて立ちあがった矢吹丈(笑)も居ます。
何時の時代にも、格闘家、いや戦う者にとって、不死身ぶりは最大の憧れかも知れません。
「無限の住人」の主人公、万次は、八百年を経た八百比丘尼に血仙蟲(体を再生する蟲)を体内に仕込まれ、50年を経たという設定です。確か、八百比丘尼は、人魚を食べて長生きしたという伝説がありますし、血仙蟲というアイディアもなかなか良い。もっとも、これは、原作の漫画を褒めなければなりません。
しかも、この不死身の身体も斬られれば痛いという設定が面白い。再生するものの、その度に死ぬほどの苦しみを受けるのが上手い作劇と思います。
さらに、二百年生きた同類の閑馬永空がおり、映画では市川海老蔵が死ねない苦しみを演じます。このあたりは、「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」の吸血鬼と同じですなあ。
ともかく、一度、原作漫画を読みたくなりました。
冒頭、プロローグとして万次が不死身になるきっかけの百人斬りシーンがモノクロで描かれます。この殺陣は、望遠アップを多用し、モッブシーンの中で一気に描かれます。本当に力技のような映像です。斬って、斬って、斬りまくる。形もなにもありません(笑)が、その迫力には正直感心しました。
この映画は、時代劇として美術や色調などはなかなか好感が持てます。
そして、登場人物の造形も、その使う珍奇な武器も、万次とのそれぞれの対決も工夫されています。もっとも、これらは原作の設定でしょうが・・。
キャスティングでも、結構な役者さんが個性あふれる敵役に扮しています。そうした敵が次々登場し、あれよあれよという間に簡単に退場していきます(笑)。
主演のキムタクは殺陣には相当頑張ったと思いますが、アクション以外は時代劇らしからぬキムタク節も健在で、「めんどくせぇ」という今風セリフなどがしばしば雰囲気を損ないます。よくも悪くもキムタクはキムタクなのでしょうし、女性の二人連れの観客も多く、やっぱりキムタクの映画だなあと痛感しました。
そのせいか、キムタク演じる万次の性格が今一つ伝わりませんし、なにより、あれだけ度デカイ隠し武器を着流しの姿のどこに隠しているのでしょうか(笑)。体を揺すれば瞬時に出てる十手のような剣やら手裏剣やらは、二本差しの着物の下にドラえもんのポケット(笑)でもなければ入りませんぞ。
かつての日活映画の何十発でも弾の出る拳銃のような嘘が、不死身という架空の設定をリアルに作り上げている努力を無にします。万次がそれらの武器を出す度にシラケます。
もっとも、冒頭の百人斬りもそうですが、ラストは、300人のエキストラとパンフレットに書いていましたから、多分三百人斬りという設定から言えば、もはやリアルさとは無縁ということかもしれません。(不死身自体がそうですが・・・)
しかし、お話が荒唐無稽だからこそ、些細なところはリアルに作り上げるというのがSF・ファンタジー映画製作の鉄則です。あちらのSF映画スタッフがどれだけリアルさを追求してるか、DVDのメイキングを見てください。その姿勢と努力には感動します。もっとも、その分、お金がしっかりかかりますが(笑)。
これは、誰も実際行ったことのない時代劇も同じです。
とりわけ、アメコミならぬ、ジャパニーズ・コミックの映画化ですから、そのあたりはもう少し配慮・工夫してほしかったものです。
結局、総じて言えば、奇天烈な剣士や殺し屋がわんさか登場して、とんでもない殺陣をさっさとこなして、感情移入できないまま終わってしまった三池ワールドでした。
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