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2017年1月28日 (土)

マグニフィセント セブン

 ご存知のとおり、西部劇の傑作「荒野の七人」は、黒澤明の名作「七人の侍」をハリウッドで翻案した作品です。この記念すべき映画は、黒澤時代劇に惚れ込んだユル・ブリンナーが自ら製作に乗り出し、当時はまだほとんど無名といってよい、スティーブ・マックイーン、ジェームス・コバーン、チャールス・ブロンソン、ロバート・ボーンなどいう後年大スターになる役者を集めた大活劇でした。いま思えば凄いキャストですな。
 この第1作は、オリジナルの侍と百姓をアメリカ人ガンマンとメキシコ人農夫に置き換え、人生への探究など芸術的要素は一切排し、勧善懲悪のスカッとする西部劇に作り替えました。監督のジョン・スタージェスの演出の腕より、エルマー・バーンスタインの有名な音楽に相当助けられてヒットしたような気もします。
 
 結局、「荒野の七人」は、オリジナルで克明に描かれた戦略や戦術が全く省かれ、単に山賊とガンマンが撃ち合うだけになったのが惜しいと思います(今回気が付かされました。)が、娯楽作品としては良くできています。
 なお、「荒野の七人」には正当な続編をはじめ、3作品のリメイク作品がありますが、いずれも第1作の出来には遠く及びません。
 
_new  さて、今回リメイクされた映画「マグニフィセント セブン」は、名優デンゼル・ワシントンをはじめ、いま売り出し中のクリス・プラットなどが出演し、なかなかしっかり作られています。
 しかも、数百人もの敵の襲撃に対する戦略や戦術が入念に描かれるなど、オリジナルの「七人の侍」へのリスペクトもしっかり感じられ、本格的な活劇として誠に好感の持てる作り方でした。
 
 また、今時の新たな西部劇として、黒人の賞金稼ぎがガンマン達のリーダーとなり、番頭役の白人ギャンブラー、メキシコ人の賞金首、赤い戦化粧のアパッチ、さらにはナイフ使いの東洋人とメンバーの人種も多様です。
 敵についても、軍隊並みの手下を有する鉱山資本家であり、貧しい白人の入植者の土地を没収するため暴虐の限りを尽くすのです。人種差別などでどこからも批判が来ないよう、なかなかうまく考えています。
 
 しかも、映像がいい。アメリカ西部の自然の驚くほどの美しさ、西部開拓時代のリアルな生活風景、そして大胆なショット。
 マカロニ・ウエスタンほどの極端なアップではないが、ワシントンを真正面から撮ったバストアップの力強さには、心が震える程感心しました。・・・どこが?と言われても困りますが、鑑賞中、何故かその凄さに感動したのは事実です(笑)。・・上半身と背景の位置関係か?・・理由はやはりわかりません。
 
 さらに、戦術を考えた銃撃戦も、曲芸撃ちもいい。セットも絵作りもいい。主役のデンゼル・ワシントンの黒づくめのスタイルは、初代ユル・ブリンナーの再来ですし、番頭役のクリス・ブラットもスティーブ・マックイーンの軽やかな身のこなしを再現しています。
 ただ、唯一、ガトリング銃の射程距離はあれほど長いのですか?少し疑問です。是非誰か真偽のほどを教えてください。
 
 結論として、間違いなく面白かったですから、未見の方は是非ご覧ください。この作品を契機に、ハリウッド伝統の西部劇が本格的に復活することをお祈りしています。
 
 最後に、この横文字タイトルは、「七人の侍」のアメリカ版のタイトルだそうです。和訳すると「崇高な七人」となります。日本の映画監督黒澤明の凄さを再確認しましょう。ちなみに、マカロニウエイスタンの元祖「荒野の用心棒」は、黒澤明の「用心棒」を盗作したものですから、本場西部劇だけでなくマカロニウエスタンにも大きな影響を与えてます。若い方は、是非、黒澤明の映画もご覧ください。まあ、騙されたと思って観てください。たまげますよ、絶対(笑)。
 

2017年1月26日 (木)

ザ・コンサルタント

 べン・アフレック主演の映画「ザ・コンサルタント」は快作です。
 田舎のしがない会計事務所を隠れ蓑にして犯罪組織のマネーロンダリングを裏稼業とする会計士であり、しかも凄腕の殺し屋という荒唐無稽な物語ですが、その生い立ちは数字に天才的才能を発揮するサヴァン症候群の病歴を持ち、軍人の父親から様々な特殊訓練を受けてきたという設定が秀逸です。
 また、その主人公の生活ぶりが素晴らしい。いかにも病的に几帳面な行動やほとんど何もない程質素な暮らしぶり、そして、貸倉庫に隠してある特注トレーラーがなんとも男心をくすぐります。報酬の名画や軍隊並みの銃器のコレクションは、男の子の夢の秘密基地ですねえ。
 
_new  一方、米国財務省では、複数の犯罪組織にかかわる謎の”会計士”を追って、いわくありげな上司の命令で女捜査官が主人公の使う偽名の特徴を分析しながらその正体に徐々に迫ります。
 こうした敏腕捜査官の追跡に加えて、偶然に闇組織でない一般企業の会計監査を請け負ったとたん、社内の不正を見つけ出した女子職員とともに、凄腕の殺し屋から命を狙われる羽目になります。
 この捜査官と殺し屋の襲撃がスリルを一層高めますが、実は、数々のアクションの見事さよりも、回想を挟みながらの一筋縄でないストーリー展開がなんとも舌を巻くうまさであり、冒頭に仕掛けられた伏線がラストを大いに盛り上げます。
 くれぐれも幼い頃の回想シーンには油断をしてはなりませんゾ。主人公の女パートナーの正体なんぞは誠に驚きますし、漠然と感じていた疑問が一気に解消です。これは謎解きのカタルシスと言っても良いほどです。こんな手で来たのかと感心しました。
 
 私、こういうのが大好きです。私の好みにぴったりです。久々に仕事の悩みもつかの間忘れました(笑)。これが映画ならではの良さです。
 さあ、明日も、元気に頑張ろう。
 

2017年1月22日 (日)

ハワード・ホークス映画読本

  私のお気に入りの映画監督の解説本「ハワード・ホークス映画読本」が出版されています。著書は、ホークス監督の信奉者と自認する映画評論家山田宏一氏です。
 
51aozgg8ncl_sx337_bo1204203200_  この有名な評論家は、ホークスの映画を定義し、「映画が映画であるだけですばらしい。」と喝破しています。
 誠に慧眼です。とかく、世間では純粋な娯楽映画を低く見る傾向があり、思想とか、メッセージとか、芸術性とか、そういったものが付加されていないとどうも評価されない風潮があります。我が国の権威ある「キネマ旬報」がその最たるものかな?なにしろ、毎年のベストテンは見たこともない映画ばかり並んでいます。
 
 しかし、本当はホークス映画のように、映画の醍醐味や面白さを純粋に楽しめばいいのです。この読本は長年私が抱いていた思いを代弁してくれました(謝、謝)。
 
 加えて、ホークスの映画の面白さについて、活劇と喜劇が絶妙に融合している凄さや登場する勝ち気なヒロインの造型に関して現代を先取りしたその秀逸さを軽妙な文章で浮き彫りにします。
 もっとも、この監督へのこうした評価は、1950年代にフランスのヌーヴェル・ヴァーグ派の映画監督たちが偉大な作家だと指摘した結果、本場アメリカに逆輸入されたことが有名であり、それまではアメリカでも単なる娯楽作品を作る職人監督と位置付けられていたようです。どこも、おフランスに弱いのかなあ。・・・我が国の三隅研次監督もそうです。もっと再評価をお願いします。
 
51rpcje17ml_sx331_bo1204203200_  それにしても、この本は今年が生誕120年に当たる記念出版ということですが、以前に分厚い伝記本を買った覚えがあります。やたら膨大な分量で高額な翻訳モノだったのですが、難解な和訳が読めずに放置しました(笑)。
 
 今回は、この本を読んで、久々に若いころの愛読書で、当ブログのタイトルの元ネタ「お楽しみはこれからだ」シリーズのわくわく感を思い出しました。もったい付けた難解な文学的な評価や政治論、楽屋ネタなどではなく、映画のシーンについて仲間内で面白さを語り合うような映画本がやっぱり楽しいものです。その意味で、この本は名著(笑)です。
 
 思えば、ホークスの映画は、西部劇の「リオ・ブラボー」、「エル・ドラド」、「赤い河」をはじめ、「ハタリ」、「ガンガ・ディン」、「ヨーク軍曹」の活劇、喜劇「赤ちゃん教育」、「ヒズ・ガール・フライデー」などがお気に入りですし、以前TVで観た「男性の好きなスポーツ」などはDVD化をかねてより切望しています。本当に120年記念なら一刻も早いDVD化を願います(笑)。
 
 しかし、巻末の作品リストを改めて眺めてみるとまだまだ未見の作品、正確に言うと観たことがあるもののDVDを収集していないものがたくさんあります。
 ということで、これからアマゾンで注文です。とりあえずは、廉価版「コンドル」「脱出」「紳士は金髪がお好き」・・・アレ!!「リオ・ロボ」が無いなあ。
 「ピラミッド」は少し値段が高い?
 
 そういえば、「ヒッチコック読本」についても、最近出版されています。同じく若いころ相当ヒッチコック映画に傾倒した時期もありました。
 今後の読書の楽しみが増えました。 
 
 

2017年1月15日 (日)

湯を沸かすほどの熱い愛

 今年初めて観た映画が「湯を沸かすほどの熱い愛」でした。私にしては紹介記事を読んで劇場で観たいなあと思っていた”普通の映画”なのですが、実はひっそり劇場公開されていました。まったく、お客様あっての劇場なら、毎度同じ予告映像の繰り返しではなく、次回公開予定の作品ぐらいはきちんと予告編を流せよ、うっかり見逃すところだったぢゃないか、あぶない、あぶない(笑)。
 さて、この映画は、なによりレビューなどであっと驚くというラストが有名になっていましたが、見る前に想像を広げ過ぎた分、驚きはあるものの「このラストは無理だろう」という気持ちが強く、特にリアリティの点や法律面から素直に喜べません。固くなった頭を叩いても、小膝は叩けません(笑)。
_new  
 ストーリーは、黒澤明の「生きる」と同じく、余命を宣告され、死までどう生きるかという永遠のテーマですから、赤い煙が出ても驚くこともありません。
 もっとも、昭和の時代では、医師は本人に告知しなかったのですが、いまや、あっけらかんと宣告するのですねえ。これには意外と驚きました。(知らなすぎかも?)
 
 丁度、この映画を見た日の夜、レンタルしたDVD「世界から猫が消えたなら」という作品を観ました。
 偶然にも、同じ「余命」のテーマなのです。これもなかなか面白い作品です。ドッペルゲンガーが出てきて悪魔の約束を行うのですが、単純なファンタジーかと思えば、死を目の前にして人生や家族関係を見つめ直すという王道の作品です。
 主人公が映画ファンという設定であり、なかなか映画ファンを喜ばせる仕掛けが多くあります。しかも、猫が隠れた主役であり、今の猫ブームの世情を反映した上手い演出と感心しました。ただ、イグアスの滝のエピソードなど回想場面の編集シーンが少し唐突だったのが残念です。
 なお、もう一言文句言うなら、私の周囲の者の経験では猫アレルギーは決して直りませんゾ(笑)。
 
 お話が外れてしまいましたが、”湯沸かす愛”に戻しますと、この作品には、もう一つのテーマが隠されていて、それが母と子の関係なのですが、どちらかというとこちらのウェイトが大きくなっています。生みの親、育ての親の関係を幾重にも絡ませ、映画の進行とともに次々と伏線が明らかになり、家族のあり方を問いかけます。ユーモアを交えながら、緩急自在の堂々たる演出で引き込まれます。宮沢りえも、突発的行動(?)などを含め熱演しています。
 
 それにしても、長女への学校のいじめは酷いねえ。現実の姿の映し絵とはいえ、日本の教育と家庭を憂います。長女役の勝負下着のエピソードこそが現実にはありえない映画ならではの世界を見事に描いており、感動しました。
 その一方、男親の扱いは雑です。オダギリジョーなんか種付役のようで、一寸ありえないなあ。
 ヒッチハイカー役の松坂桃李が良い味を出しています。彼が実はりえの実母の嫁いだ建設会社の息子だったというあっと驚くオチを推理していましたが、全く違いました(笑)。
 
 以上が、今年最初に劇場で観た映画の感想です。そして、この記事が今年最初のブログになりました。遅まきながら、今年もよろしくお願いします。 

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