風の市兵衛
このGWは、文庫「風の市兵衛」シリーズにはまりました。佐伯泰秀、上田秀人、風野真知雄などの有名作家のお馴染みの時代小説シリーズがマンネリ化する中、それらに代わる面白い作品に行き当たらなかったのですが、「この時代小説が凄いで第3位」という帯の宣伝に魅かれてたまたま手に取った第一作の面白さに感心しました。
やはり、こういった娯楽作品は、痛快な主人公の設定が重要です。風の剣をふるう風のような、どこか涼しげな浪人者であるにもかかわらず、算術を持って渡り用人を稼業としているというのがうまい。しかも、王道である貴種流離譚ものであり、個性的で魅力的な仲間との触れ合いが定番的に描かれるのも好ましい要素となっています。
さらに、各物語には、必ずおきゃんな町娘や気丈な姫が登場し、市兵衛とのやり取りの中で、淡い恋心がさらりと描かれ、男性読者の心をしっかり捉えます。
特に、第1作目の「風の市兵衛」の旗本の母子、第2作目の「雷神」の絹問屋の跡取り娘、第4作の「月夜行」の大名の姫、第6~7作の「風立ちぬ」の料亭の娘など、僅かな数行の描写がうまいのです。
加えて、主人公市兵衛と別嬪の娘たちとのやり取りが禅問答のような趣があり、なんとなく楽しくなります。
一方、始めのうちは、この著者の文章表現がやや独特の省略系というか、言葉足らずの感があり、速読の私には、どういう場面か時折戸惑う面もありましたが、慣れればそれも個性なのでしょう。
とにかく、殺陣のシーンが「風になった」とか「風に乗った」という抽象的な語句で表現され、いつの間にか相手は「横たわっていた」ということで具体的な斬り方や刀法がわかりません(笑)。この点、秘剣の佐伯泰秀や奇想天外な剣法を編み出す風野真知雄の時代小説とは全く趣が異なっています。
ちなみに、主人公が振う「風の剣」とは、文中の「人とも思えぬほどの使い手」という表現からすると、幼少時に馬と競争したという逸話から、剣術の型ではなく、並外れた脚力を活かした動きの速さの剣術という設定だろうと私は密かに推測しています。
結局、この連休の期間に文庫の第1巻から第13巻まで一気に読了です。しかし、まだまだシリーズは続いており、最新刊は、17巻のようですので、お楽しみはまだこれからです(笑)。
映画などの映像化のお話はまだ無いようですが、各巻完結の小説ですので、テレビ向きでしょうねえ、期待しています。
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