ヘイトフル・エイト
クエンティン・タランティーノの新作「ヘイトフル・エイト」は、まさしく、喰えない連中の血みどろの密室推理殺人劇であり、本格探偵小説のセオリーから言えば、インチキ、アンフェアと言うべき仕掛けがある映画でした。
まあ、出鱈目な時間軸によるストーリー展開は十八番ですが、タイトルや出演者名簿までミスディレクションに使うとはあきれます。・・・880円もしたパンフレットにまで記述がない(笑)。あれは誰ですか?
映像やストーリーの表現はあいかわらず過激で、大量の血糊サービスは当たり前ですし、登場人物もすべて卑劣で嘘つきな極悪人であり、当然にその復讐などの方法はお下劣極まりないものですが、汚く饒舌なセリフの長丁場は人種差別、縛り首、南北戦争などへのタランティーノの怒りを見事に映し出し、西部劇の形を借りて、現代のアメリカ社会を鋭くえぐり出しています。見事なものです。なんといっても、サミュエル・L・ジャクソンのセリフ回しが絶妙です。もう黒澤明と三船敏郎ですよ。
そしてカート・ラッセルが結果としては儲け役でしたなあ。ラストの終い方、悪く言えばつじつま合わせが実に良い。好きですなあ。・・・ラッセルの腕が上手い(笑)。
ところで、山小屋のセットは、日本人の種田陽平氏が招へいされたとか。どっかで見たようなと思ったら、「シェーン」の雑貨屋をイメージしたとか。評判もよろしいようで、日本人として鼻が高いなあ(笑)。
それにしても、吹雪の特殊技術がジョン・ダイクストラで、音楽がエンニオ・モリコーネ、しかも今時70mmのフィルム撮影といいますから、もう映画マニアの真骨頂です。
くだんのパンフレットによると、マカロニ西部劇から本場の名作まで様々なシーンをリスペクトしているようです。まあ、セルジオ・レオーネを尊敬しているのはよくわかりますが、ワイラーの冒頭の6頭立ての馬車の逸話など知りません(笑)。ああ、遊星からの物体Xは判りました。・・・そのためのキャスティングでしょう、きっと。
それにしても、過剰な下品さが玉に瑕ですが、白人警察官が黒人を射殺してなんらの罪に問われないという現代アメリカ社会の状況を見ると、西部開拓時代とさほど変わっていないことをこの喰えない監督さんはしっかり告発していることがよくわかります。
しかし、こんなにストレートに表現する態度は素晴らしい。リンカーン大統領の手紙のエピソードの意味は大きいなあ。
総括すれば、やり過ぎがいろいろとありますが、ラストの良さで良しとしましょう。
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