アメリカン・スナイパー
アカデミー賞の候補として話題になっている「アメリカン・スナイパー」は、クリント・イーストウッドの映画監督としての腕の確かさ、実力を改めて認識させられた作品でした。
原作は、イラク戦争で、160人以上の敵を射殺し、史上最強のスナイパーと賞された実在の兵士のお話です。当然、アメリカ国内でも、戦争賛美、反戦、英雄、悪魔と賛否が分かれているそうです。現実の政治の主義主張からの視点は、友人の映画愛好家の鋭く納得する評価にお任せして、私は、純粋に映画の造りに感心しました。
冒頭の戦闘シーンですが、いきなり、戦車のキャタピラのどアップから始まります。この一瞬で、私の心は射止められました。男達の心を狙いすました見事な狙撃です。
さらに、その戦車と一緒に進むアメリカ兵士たちの前に投てき弾を隠し持った親子が登場します。この子どもを狙撃するのか、どうか、というところで、主人公の入隊前の暮らしへの回想に一転します。この映画は、イラクの戦争シーンと、本国での妻との日常的な生活シーンが交互に描かれていますが、その編集の見事なこと、全く違和感がなく、驚嘆します。なお、前段の結果は、映画でご覧ください。伏線の仕掛けにもご注意を。
また、この映画で描かれる戦闘シーンは、モロッコの町でロケしたようですが、ともかく、リアルです。使用される銃器もかなりの考証を経ているとのことです。
しかし、それ以上に、物語として上手いと思ったのが、見えない敵をうまく見える形にして描きだしているところです。電動ドリルを使って人を殺す「虐殺者」や、最後まで主人公の好敵手となる敵方の狙撃手をストーリーの柱としてしっかり位置付けています。強烈な敵役の存在こそが、ドラマの面白くなる鉄則です。オリンピックのメダリストという敵の狙撃手は、1000m以上の距離から撃ってきます。この敵との戦いが伏線となって、主人公をイラクに4回も参戦させるのです。ちなみに、原作の記載では、わずか1行らしい。
一方で、戦争の悲惨さもしっかり描きます。女や子どもも参戦しますし、人の好さそうなおじさんもみな敵です。主人公たちは、目の前の虐殺者の住民虐殺も止めるこはできませんし、現実の悲惨さ、むごさを浮き彫りにします。
主人公も、PTSD(心的外傷後ストレス障害)に徐々に侵されていくのですが、割合、軽度なのが不思議です。やはり、「味方のために、敵を殺すのは正義、」「敵は、野蛮人」という意識なのでしょう。教育や環境でしょうかね。風土ともいえます。まさしく西部劇なのです。なんのためらいもなく、インディアンを殺戮してきた歴史そのものです。
いやあ、このへんのアメリカ人、中でも南部の保守系の人たちの意識は理解できません。いい戦争と悪い戦争があるというのが、アメリカ国民の一般的な意識なのでしょうねえ。敗戦国の国民にはわかりませんが、最近そうでない人が増えていますか?。
そして、最後に登場する人物と、意外な結末を示す一行。そして無音のエンドロール。このラストは、適役者の発掘を含めて、イーストウッド監督の名演出です。考えさせられる、観客へのメッセージでした。
私は、この作品は戦争映画の傑作と思います。珍しくいろいろ考えさせられました。
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