秋刀魚の味
若い頃、小津安二郎の作品を見ても、静止画の連続のような画面であり、全く面白いとは思いませんでした。圧倒的に、黒澤明監督のダイナミックな映像が好みでした。
しかし、世評は、特に海外での評価は、小津人気は絶大なものがあります。歳を重ねれば、少しはその良さの理解が深まるかなあと、以前見た時に割と気に入っていた「秋刀魚の味」をDVDで見てみました。
まず、DVDの冒頭のタイトルに驚きました。生誕100周年を記念したDVDのためか、「OZU」という英語表記が現れます。まるで、極東のオズの魔法使いの世界に誘うような仕掛けです。外国人向けでしょうかねえ。
あのゴジラも、「GODDIRA」と神のスペル(GOD)が入っているのが、欧米に受けている原因とも言われていますが、本当かねえ(笑)。
余談はともかく、改めて、小津作品の画面のモダンさに驚きます。工場にしろ、飲み屋街にしろ、一部を切り取ったような大胆なデザインや鮮やかな色彩には感心します。飲み屋の窓から見える赤ちょうちんを一方方向から静止画で撮っています。外国人には、多分、画面の赤い物体が、実は、軒にかかったちょうちんとは想像できないのではないでしょうか。
しかも、小津監督お決まりのローアングルですから、見慣れたはずの日本間などの情景が奇妙に写ります。まさに、魔法使いのオズ監督による異国の景色なのです。
くわえて、登場人物達の台詞の日本語としての奇妙さは何なのでしょう。結構早口で平たんな抑揚です。テンポはまるで外国語のようです。字幕で見る外国人には、案外ぴったりなのかもしれません。
それにしても、長男役の佐田啓二に対する岡田茉莉子扮する妻の言葉や態度のそっけないこと、キツイこと。一方、夫のあきらめたような態度や無口なこと、いやあ、身につまされます(笑)。このあたりは、古今東西、万国共通かもしれません。
話は、たわいも無い内容で、笠智衆扮する父親が、無くなった妻の代わりに身の回りの世話をする長女の岩下志麻を嫁に出すまでのスケッチです。そこには、結婚や家庭、職場のありようなど古い良き日本が残っているのですが、案外、今見ても心情はよく理解できます。もっとも、多分、お話としては一部の恵まれた人達なのでしょう。つつましい暮らしのような笠智衆も、実は、元海軍の駆逐艦の艦長という設定ですから、庶民とは違うようです。その辺を加東大介扮する一兵卒との関係でさらりと描き出します。
そんな中、とりわけ笠智衆の同級生の3人組の飲むシーンが気に入りました。運転手付きの車を待たせている会社の重役や若い女房をもらった医者とのやりとりが心地良いのです。気のおけない雰囲気をつくり出せるあの小料理屋は、まさに男の願望でしょう。本当に、ああいう暮らしがしてみたいものです。うらやましい。
最後に、どうしてタイトルが「秋刀魚の味」なのでしょう。サンマがどっかに出てきたのかな?どなたか、お教えください。
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