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2013年12月10日 (火)

上田秀人 奥右筆秘帳

Img  今一番のお気に入りの時代小説の作者が上田秀人です。
 「この文庫書下ろし時代小説が凄い!」の第一位に輝いた「奥祐筆秘帳」シリーズを知って以来、贔屓にしています。
 佐伯泰英の「居眠り磐音江戸草紙」などに比べると、徳川幕府の権力闘争がテーマであり、虚実織り交ぜながら、上様(上司)への応対、出世の有り様など現代に通じるなかなかシビアな人間関係を鋭く描いております。

 この物語は、主人公である奥右筆組頭の立花併右衛門が、幕府の特定秘密(笑)に触れたため、謎の御前から命を狙われる羽目になり、もう一人の主人公、隣家の厄介叔父(長男の当主に跡継ぎができた家の次男のこと)である柊衛吾を、婿養子先の斡旋を餌にして、護衛役に雇うところから始まります。
 シリーズの当初は、己のお家が一番大事という能吏の併右衛門の人物像に違和感や抵抗感がありました。なにしろ、この人物は、自分の家を守るためには、徹底的、合理的に、非情にもなって、何にも容赦しない鉄の意思を持つ人なのですから、あまり共感も出来ません。
 ところが、冥府防人というふざけた名前を持った凄腕の刺客が登場し、そのあまりの腕の差から死の恐怖におびえる衛吾を気丈に支える併右衛門の一人娘瑞紀との関係が、幼馴染から大人の恋に進展するにつれ、物語は俄然精彩を放ってきます。
 やはり、可愛くて芯が強く、ジブリの鈴木プロデューサーが言うところの宮崎駿が描く「都合のいい女」が必要です。多分、現実にはいない、男どもの共通する勝手な夢なのです。

 加えて、将軍父子の骨肉の争いを軸に、神君家康公が生み出した禁忌を巡って、老中たちの権力闘争、お庭番や伊賀者の暗躍、朝廷の意を受けた寛永寺の襲撃などの話が壮絶な殺陣の描写とともに展開します。
 その戦いの恐怖と混乱の中で、上役の言葉や行動の裏を見抜きながら、地位を守り、功を重ねていく併右衛門の生き様や台詞が、現代のサラリーマンの世界に通じる警句や行動規範となって胸を撃ちます。著者は、自営業の歯科医であり、宮仕えを経験されていないはずなのに、組織というものの本質を見事に捉えています。このあたりが、家族のために頑張っているサラリーマン諸氏の共感を生み、人気第一位となった理由でしょう。

 さらに、主人公二人が様々な暗闘を生き抜いていく内に、未熟だった衛吾が、剣術の腕も人間も大きく成長していきます。このあたりも好ましい所以でもあります。
 ちなみに、佐伯泰英の「居眠りさま」シリーズも、初期の頃は、こうした成長譚の魅力が沢山ありましたが、いまやすっかりスーパーマン化し、定型化してしまいました。シリーズも長すぎ、他の作品の主人公たちも・・・ファンだけに残念です。
Img_0001  ちなみに、この奥右筆秘帳は、わずか12巻で完結しました。逆に、著者が無理に早く終わらせたような気がします。読者とすれば、もう少し続けて欲しかったし、最後の決闘も違う形にしてほしかったナ。
 それにしても、子沢山のオットセイ将軍の家斉が名君だったとか、衛吾の剣の師匠のおおらかな優しさも忘れられません。

 まあ、新作の「百万石の留守居役」に期待しましょう。第1巻から魅力ある勝気な姫君が主人公の婚約者として登場しています。もう、定番中の定番のうれしい設定ですので、今後が楽しみです。

 旧作からも、「将軍家見聞役 元八郎」全6巻もご覧ください。登場人物、元お庭番の女房殿、剣の師匠の飄々とした老坊主、絶世の美女の黄泉の醜女などは忘れらません。是非、映画化もして欲しいものです。

 未読の方は、騙されたと思ってお読みください(笑)。 

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