ヒッチコック
サスペンスの巨匠といわれたヒッチコック監督の「サイコ」の製作エピソードを映画化した、その名も「ヒッチコック」をレンタルDVDで観ました。
ヒッチコックには、アンソニー・ホプキンスが扮し、その妻をヘレン・ミレンが演じます。名優同士の演技合戦という趣向でしょうが、それより、「サイコ」の主演アンソニー・パーキンスやジャネット・リーのそっくりさん演技が楽しめました。特に、アンソニー・パーキンスの素顔やしぐさなど、いかにもホンモノらしく見えて、笑えます。
また、ヒッチの金髪美人好きもそこそこ描かれていますが、いろいろの批評を読んだ感想では、実際はかなり変だったような気がします。やはり、天才は普通でないというのが当たり前なのでしょう。だから、あれだけの傑作群がつくれるのです。
お話自体は、あのエド・ゲインの大量殺人の実話を映画化しようとしたため、当時の映画会社の無理解、映倫の頑迷さ、周囲の良識人たちの反発、そして長年のパートナーである妻との溝など、「サイコ」製作中の苦労話を描いたものですが、まあまあ、ごく普通の出来です。ただ、冒頭とラストのシーンは、まさに、ヒッチコック風の秀逸な描き方です。そこは感心しました。
それにしても、「サイコ」は、あの実話から、よく、あんな上品で、斬新な映画にまとめたものです。ヒッチと妻が完成前に必死で再編集する場面は感動モノです。作品を生かすも殺すも見せ方です。昨今のホラー映画のグロテクスさは反省して欲しいものです。
ヒッチコックという監督は、フランスや日本では、サスペンス映画の神様のように崇められていましたが、アメリカでは、スリラー物が格下と思われていたためか、アカデミー賞ににも縁遠かった(残年賞のみ受賞)模様です。一部の映画監督などには、かなりの影響を与えていますし、マリリン・モンローでもあるまいに、今回のように映画化が実現するのですから、大衆には人気が有ったと思います。どうやら、ハリウッドの業界筋に嫌われていたような話もどこかで読みましたが、実際はどうだったのでしょうネ。
個人的には、こうした映画製作の裏話的なエピソードが大好きなものですから、なかなか興味深く鑑賞させていただきました。ヒッチコックの生活ぶりも面白い。今回のジャネット・リーは、本物より好きです(笑)。
惜しむらくは、もう少し、ヒッチの撮影技法を紹介して欲しかったものです。伝説のシャワー・シーンにおけるスタントの顔を黒く塗っていたのは、いかにも、でしたが、あのシャワーのノズル自体の工夫などを登場させてほしかったのは、私だけでしょうか。
ちなみに、フランスの映画監督のフランソワ・トリュフォーがヒッチコックにインタビューしてまとめた「ヒッチコック映画術」という本は、大傑作です。ヒッチコックのすべての映画に関して、さまざまな裏話を載せています。ヒッチコック本人からの話ですから、迫力があります。
「断崖」の牛乳入りコップに仕掛けた豆電球、「めまい」の伸びる階段、「白い恐怖」の巨大な手、「サイコ」の正面に水が出ないシャワーノズルなどなど、CGのない時代で、さまざまな意表をつく撮影の工夫が紹介されます。そして、ヒッチの人を喰ったような人柄まで描き出しています。「たかが映画じゃないか。」などの逸話もあります。若い映画ファンの皆様、大型本ですが、機会があれば、是非、一度手にとって、ヒッチコックの創造の秘密をお楽しみください。
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