やっと、というか、ついに「ワールド・ウォーZ」を観て来ました。もう随分前から劇場予告編で群衆の一大モブシーンを見せられており、SF・ファンダジー、怪奇、アクション映画の分野をこよなく愛する者としては、まずは公開一番に観るべき映画の範疇なのですが、今回は、悩んだ挙句の鑑賞になりました。
腰が重かった第一の理由は、実は、私、いわゆる「ゾンビ」映画が大嫌いなのです。これだけ怪奇やファンタジーの類の映画が好きなのに、ゾンビやスプラッターなどのハードコアのホラー映画だけはいけません。生理的に受け付けないのです。しかも、最近は、特殊撮影技術の進化のおかげで、切り刻んだり、人が人を食ったりするシーンが、そのまんま露骨に映像化されます。とてもついていけません。
そして、この映画のZとは、まさにゾンビのことだったのです。和訳すれば「ゾンビ世界大戦」とも読めます。(本当はレベルZらしい。)しかも、無数に登場するのは、異常に早く走ることの出来るゾンビなのです。いまや、映画「28日後・・」以降、ノロノロ動くゾンビから、活動的なソンビが主流になったようです。
第二の理由が、インターネットなどの映画サイトの、いわゆる観客レビューで公開当初の評価が異様に低かったのです。ストーリーがおかしいとか、結末ががっかりとか、かなり好意的でない意見が多く、「そんなにつまらないなら、今回はパスしよう。」と、実はしっかり観ないための理由にしていました。
ただ、その一方、興行成績がけっこう良いのです。まあ、ブラッド・ピットが主演ですし、多分、女性ファンが多いのでしょう。それに、人を喰ったりするシーンがソフトで、一般向けの映画のような噂が流れてきました。
そこで、はたと気が付いたのです。公開当初の低い評価のレビューは、ゾンビ映画マニアの皆さんの怒りの声だったのではないか。いわゆるマニア向けの”お食事”映画ではなかったのでしょう。つまり、「マン・オブ・スティール」もスーパーマン映画とみるとつまらないのですが、宇宙人の侵略映画として見ると、なかなか味があるのです。そう気が付くと、SF映画ファンとしては、この映画はSFパニック映画として観に行かざるを得ません。
さて、前置きがかなり長くなりましたが、見た結果としては、この映画の細かいことは気にしない荒唐無稽ぶりが気に入りました(笑)。けっこう面白いぢゃないですか。
冒頭、普通の家族が、突然とんでもない厄災に見舞われます。最初は、サイドミラーの破損という日常のささいなアクシデントから、突如、大型トラックの突入から日常の光景が一変します。主人公たちは何が起こったのか、まったくわからないまま、ひたすら逃げ出します。逃げる途中のスーパーマーケットの混乱や略奪など、いかにもアメリカ人の行動です。盗んだ車を盗まれても、それはしかたない、というのは、平和ボケした日本人の感覚なのでしょう。
余談は別にして、このままの一般人のお話では、スピルバーグの「宇宙戦争」と同じく、観客には全体像が全く把握できないまま映画が終わるという悲惨な運命を辿るところでしたが、この映画の脚本では、主人公は、実は、国連の元敏腕調査員であり、その腕を事務局次長に買われていたため、家族ともどもビルの屋上で絶体絶命の危機に陥っていたところを国連軍のヘリコプターに救助されます。そこで感染源の調査を依頼されることから、観客は、めでたく主人公を通じて世界感染状況の全体を見ることができるという仕掛けになっています。なかなかうまいホンです。
ところが、笑えることに、最初、主人公は家族を守りたいと断るのです。こんなヒーロー像はあまりありません。マイホーム・パパという言葉を思い出しました。これが、世界の現実の潮流なのでしょうか、せめて映画ぐらいは、理想に燃えて欲しいものです。
結局、家族の安全と引き換えという軍の脅しに屈して、しぶしぶ調査に向かうのです。
さあ、こっからは、やる気とは別に、もうブラッド・ピットの独壇場です。確かに、映画レビューで指摘される変な箇所は、たくさんあります。しかし、些細なことです。アメリカ、韓国、イスラエル、イギリスと、わずかな手がかりだけで、世界を大胆かつ無謀に回ります。誠に、荒唐無稽の極みで、面白いぢゃないですか。逆に、ここまでくると、その大ボラには感動するのです。この映画の世界でも架空とされているゾンビと交戦中という報告をたった一人信じて、国中を高い塀で囲ってしまった将軍のエピソードは、さすがにやり過ぎとは思いますが、あのゾンビの櫓の映像のためと思えば、笑って許しましょう。空港や町並みを俯瞰撮影したゾンビの群れは一見の価値があります。
ともかく、この映画は、細かなことには目をつぶり、ただただ、飛行機が墜落しても死なないブラッド・ピットの行き当たりばったりな大活躍を見守りましょう。
それに、ラストのオチもいいじゃないですか。ゾンビ映画に一応、きちんとした始末を描いた最初の記念すべき映画です。しかも、そのラスト、WHOの研究所で登場する元研究員だったラスボス(?)風のゾンビのデザインが素晴らしい。ゾンビの造型で気に入った第一号かもしれません。元黒人研究員のデザインも捨てがたいものがあります。ちなみに、ゾンビではありませんが、イスラエルの女兵士も良いですなあ(笑)。
まあ、人喰いシーンもほとんど無くあっさりしており、安堵しましたが、最近、ゾンビが喰らう肉の量が少なくなったせいか、血だけ吸う吸血鬼との境がわからなくなりました(笑)。同じく、伝染るんですから・・。
この映画は、私にとって、無数のゾンビが登場しますが、ウイルス感染のパンデミックを描いた一大ディザスター映画として楽しめました。あの「バイオ・ハザード」シリーズをお気に入りのミラ・ジョヴォヴィビッチ主演映画として鑑賞しているのと同じことです(笑)。
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