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2013年4月30日 (火)

フランケンウイニー

 「フランケンウイニー」をレンタルDVDでやっと見ました。こんなに遅くなったのは、「ダーク・シャドウ」など、最近のティム・バートン監督の作品のできから、どうも気乗りがしなかったためです。しかし、杞憂でした。さすがに、監督自身による処女作の再映画化です。久々に見ごたえのある出来となりました。

 デフォルメしたキャラクター達は、あいかわらずキモい造型ですが、彼らの住む世界は、かつて日本人が憧れたアメリカの象徴のような、広い芝生や大きな屋根裏部屋のある住宅、幾何学的な町並みなど、美しいモノクロ映像で描かれています。その映像はストップモーション映画にもかかわらず、まるで実写のような照明が美しい。それに犬の動きや縫い目のリアルなこと、こんな小技も凄い。

 題名の意味は、フランケンおたくというような意味だそうで、監督のモンスター好きの趣味が目一杯反映されています。もともとのお話が、死んだ飼い犬を縫い合わせて生き返らせるという「フランケンシュタイン」のパロディ映画なのですが、それ以外にも、クラシックモンスター達がわんさか出てきます。主人公のこどもがフランケンシュタインの博士なら、その友達には、せむし男で助手のイゴールも居るし、怪物そのままのデザインの友達も居ます。そして、理科の先生は、どうみても怪奇俳優として有名なビンセント・プライスのカリカチュアであり、あろうことかアニメのテレビの画面では、本物のクリストファー・リー主演の「吸血鬼ドラキュラ」が実写で放送されています。

 また、ペットの犬を生き返らせる装置は、当然「フランケンシュタイン」の有名な装置を模して作られており、手術台は雷を受けるために、しっかり天井に吊り上げられますし、秘密を知った悪童たちが、さまざまな死んだペットを甦らせます。
 雷のショックで、蝙蝠を加えた猫が空飛ぶ吸血鬼に変身し、死んだ鼠が狼男のように凶暴になります。また、巨大なイモムシは、まるでミイラ男のように包帯で巻かれ、魚は透明化します。さらに、ミジンコのようなシー・モンスターは、無数の半魚人となり、大騒ぎを引き起こします。また、フランケン犬の友達の雌犬は、電気ショックで、「フランケンシュタインの花嫁」の稲妻型のファッションになります。この辺は、芸が細かいです。
 そして、何より一番驚いたのが、死んだ亀がなんと大怪獣ガメラに変身し、町を破壊するのです。もうなんでもありで、なんとも素晴らしい。これまでのスランプをすっかり克服したと、思います(笑)。

 また、最後の最後は、やっぱり、監督です。神の摂理では決して終わりません。これも立派です。

 それにしても、オランダ人の町というのは、「フランケンシュタン」の映画で、有名な風車小屋が燃え落ちるラストシーンのオマージュのためだけの設定かしら?それとも、彷徨えるオランダ人・・・なんて伝説があるのかなあ? どんな裏話があるのか、知っている方、どなたか、お教えください。

2013年4月29日 (月)

アイアンマン3

 いやあ、参りました。「アイアンマン3」の出来がこれほど酷いものとは思いませんでした。あの「アベンジャーズ」の後、つまり、宇宙人が外宇宙から攻めてきた後という設定です。主人公は、その戦いの後遺症で神経症になっている状態です。普通、そんな時代背景の中で、アラブ人のテロとの戦いを取り上げますか?なんか変です。しかも、その裏に潜むのは、十数年前、主人公の悪ふざけで心を狂わされた科学者に率いられた、3千度までの熱を発する改造人間達の組織なのです。

 こんな馬鹿馬鹿しい設定で、主人公の冗句を繋ぎながら、話が延々と続きます。しかも、意味不明な登場人物も次々現れ、一体、何の話か、わからなくなるような展開でした。恒例の死ぬほど長いエンドロールの後の後日談も、結局はマイティソーの予告編というちゃっかりぶりです。とことん観客をなめています。
 所詮、アメコミの映画化です。こどもだましの映画ではないことを示したいという気持ちも解りますが、どうせやるなら、大人の観客も楽しめる、きちんとしたSFアクション映画にして欲しいものです。

 本当に、つまらぬ映画を観てしまった。・・・これでは、ハリウッド映画離れがますます加速しそうで心配です。

2013年4月28日 (日)

ラストスタンド

 アーノルド・シュワルツネッガーの本格的な復帰作とも言われている「ラストスタンド」を観て来ました。ターミネーターがすっかり老けて、第1作でお馴染みともいえる床にぶっ倒れたシーンで、「オールド」と自嘲する予告編に心惹かれて劇場に足を運びました。

Img  この作品はアクション娯楽映画の快作です。観客のツボをしっかり押さえて、もう気分爽快です。映画の中の仕掛けに何度も頷きます。巧すぎです。800円もするパンフレットを紐解けば、監督はキム・ジウンという韓国人の監督で、アジアのジェームス・キャメロンと呼ばれているそうな、さすがに宣伝では巧いことを言いますナ。しかし、正直そのとおりです。この監督のハリウッドデビューがシュワルツネガー主演映画なら、今後も大いに期待できます。(それにしても、日本人はどうしているのでしょうね?出でよ、日本のスピルバーグ!!今の日本の軟弱社会では国際社会ではやっぱり無理かな?)

 さて、前置きはこのぐらいで、物語は、元ロスアンゼルスの凄腕の麻薬捜査官だったシュワルネッガーが引退して、メキシコとの国境近くの田舎町で保安官をしているのです。町には、銃器マニアの変人がいるぐらいで、何も事件の起こらない平和な町。
 一方、ラスベガスでは麻薬王が脱獄し、時速400Kmを誇るシボレーコルベットZR1の怪物級の特別仕様車を操り、シュワルツネッガーの住む町を通過し、国境突破を図ろうとするのです。しかも、ハイテク武器を駆使する麻薬カルテルの傭兵達が、先乗りして仮設橋の建設や、ハイウエイを守る警察への容赦ない攻撃などのシーンには、単なるドンパチだけでなく、いつも一種の驚きを演出しているのです。秀逸なストーリーに加え、周到に用意された演出上の仕掛けが心地よい効果を挙げます。このへんが、シュワルツネガーが客演した「使い捨て軍団」の映画とは雲泥の差になっています。

 それにしても、最後の砦(ラストスタンド)として、田舎の保安官ら5名が立ち向かうのが、第一次世界大戦以降の古い銃器なのです。ただ、やはりその素朴な威力は凄いなあ。しかも、キャラクターがそれぞれきちんと描かれています。定石の美人の保安官、軍隊経験のあるその元旦那、昔ギャングの武器で有名なトンプソンサブマシンガンを掃射するメキシコ人の五郎兵衛のような助手、銃器マニアで様々な骨董的武器を提供し、自分では名前をつけたマグナムを愛好する変人、そして、まず最初に犠牲になることが初めから予想される気の良い三枚目の助手。また、侵入者にいきなり猟銃をぶっ放す頑固爺とか、よれよれのくせに悪人を撃ち殺すおばあちゃんなど、いかにもアメリカの片田舎には実際いそうですナ。
 敵の幹部のおっさんも、レーサーが趣味の麻薬王も、観客が期待しておるように、しっかり描かれています。冒頭の脱獄シーンから、美人警官の拉致、トウモロコシ畑などでのアクションシーンまで、まったく目を離せません。きめ細かな伏線や小技の意外性を楽しんでください。まさに、日頃の憂さを吹き飛ばす、時速400kmの爽快な娯楽作品です。ぜひ、ご覧ください。
 

  

2013年4月27日 (土)

蝦夷館の決闘

 このブログでも見たい映画のひとつに挙げていた「蝦夷館の決闘」が、4月の衛星放送NECOで放送されていました。番組に気が付いたのが、4回の放送日のうち、平日の4月26日の午前7時からという最後の放送回の数日前というタイミングでした。まさに、ラストチャンスだったのです。何故、あの日偶然に、番組表を目にしたのかもわかりません。虫が知らせたのでしょうか、本当にラッキーでした。

 この映画に執着している理由も、実はたわいもない話で、ひとつは時代劇であること、そして、こどもの頃に劇場で見たものの、ほとんど覚えておらず、ただ、時代劇らしからぬ荒野の中で、二人の侍が決闘し、一方が手と足を斬られて死んだ、というラストシーンが唯一記憶に残っているせいなのです。やっぱり全部を知りたいじゃないですか。それに仲代達矢も出ていたそうです。全く覚えていません。
 作品紹介などによると、監督は、喜劇映画が得意な古沢憲吾、原作は、眠狂四郎の柴田錬三郎、出演者は、仲代達矢に加え、加山雄三、三国連太郎、島田正吾という豪華陣なのですが、どうも評価も今ひとつであり、いわば東宝の典型的なプログラムピクチャーの作品だった気がします。つまり、あまり期待してはいけない映画なのです。・・とは言え、長年、気になっていた作品だけに、実際に見るとなるとやはり気合が入りました。 

 さて、放送当日の録画も、少し画面サイズが気に入りませんが、無事に終了し、たったいま数十年ぶりに再見しました。が、予想どおり、というか、予想以上に、大変悲しい思いをしております。いや、ただ再見できたことに、感謝をいたしましょう。ありがとうございました。以上です。

 ・・・あえて、蛇足的に付け加えると、まず、ストーリーは、タイトルのとおり、幕末、蝦夷地でアイヌを束ねる武田信玄の後裔の一族が、ロシアの女性を誘拐し、新式銃を要求するという事件が起こり、幕府隠密が、8名の特攻隊を組織し、山岳地に構えられた難攻不落の本拠地である蝦夷館に潜入し、異人女性を救出しようというお話です。ロシア軍や幕府軍も入り混じる大活劇の上、その8名は、浪人ややくざ者など、いずれもさまざまな特技を持つ者という設定です。話だけ聞けば、和製「ナバロンの要塞」にもなる題材です。

 しかし、主演は加山雄三であり、外国語に精通し、ガトリング銃も独学で組み立てる秀才の上、武芸百班に秀でているのに、なぜか、牢屋に入っていたという役柄です。もう疑問だらけですが、その加山を雇う幕府の隠密が、三国連太郎です。腕も凄いが、口先で敵に潜入するような隠密を持ち味を活かして演じます。
 ただ、この二人の対決なのですが、いかんせん、三国連太郎に剣豪は向きません。懐かしい最後の決闘も、殺陣がショボイ、というか、三国の動きがゆるい。それに、斬られたのは両腕でした(笑)。
 また、それ以上に話がだるい。難攻不落の館への潜入の途上、敵のさまざまな攻撃を受けるのですが、何のスリルもサスペンスも全くありません。ただ、石が落ちてきたり、着ぐるみと一目でわかるヒグマが登場します。一気に脱力します。しかも、やたら景気の良い音楽で、観客の気分はますます落ち込みます。
 主演の加山も一向に見せ場はありません。ほとんど活躍もしませんし、へまばかりです。見せ場としては、倍賞美津子演じるお姫様に夜這いをかけて、惚れられるという、今時はもう絶滅したような設定だけでした。加山とコンビの青大将をはじめとする他の7名も何の力量も見せる場もなく、死んで行きます。本当に、びっくりするほど盛り上がりません。結構お金を掛けたヘリコプターの空撮による合戦シーンも、単にだらだらと景色を映しているだけという演出です。さらに、館というより砦のようなセットを本当に焼いているのは、この作品に限ってはモッタイないと思えるほどです。あきれ果てました。今回、再見して唯一、思い出したのは、黒沢年男と加山が斧と盾で決闘するシーンでしたね。
 また、期待した仲代達矢は、幕府の大目付で、隠密の三国に命令し、策を授けるだけの出番でした。特別ゲスト的な出演です。皮肉なことに、その二人の場面だけが仲代の低音の魅力と三国の変な声の応酬のせいか、なんか演技で張り合っているようで面白かったナア。

 ・・・まだまだ言いたいことはありますが、ひとつだけ判ったことは、この作品のDVDの発売は多分ないだろうということを改めて確認いたしました。 

 

2013年4月21日 (日)

舟を編む

 話題の映画「舟を編む」は、本屋大賞を獲った作品を映画化したものです。この作品の面白さは、やはり、原作の魅力によるものでしょう。映画化に際しては、小説をいかに観客にリアルに見せられるかという点につきます。お話自体は、新しい辞書を作るという出版社の社員の悪戦苦闘を描いたものです。なにせ、辞書作りは十数年にも及ぶ長期戦です。正直、よくぞ、こんな話を小説化したものと思う一方、この作品に、本が好きで本屋さんなどに勤めている人たちが大賞の選考に一票投じたのも頷けます。

 さて、映画としての見所は、やはり映像としての見せ方ですが、マジメ君の夢に出てくる言葉の海に沈むシーンなどは、原作の文章表現をそのまま、なんの工夫もせずに映像化したような誠に陳腐な出来でしたが、大衆居酒屋の歓迎会や辞書作りのアナログ手法などの描写をはじめ、マジメ君が住む古びた下宿屋のセット?はリアルで、その丁寧な作りこみは共感しました。あの下宿の膨大な蔵書のある部屋はうらやましく、もあります。
 しかしながら、なにより重要なことは風変わりな登場人物たちの人物造型です。原作の魅力のひとつであろう、松田龍平演じるもう変人と言ってよい、主人公の「マジメ」くんの描写です。出版業界に居て、無口で内気で営業などまるで出来ない、最初は見ているだけでいらいらするのですが、あおいチャンが演じる「かぐや」さんの登場あたりから、共感してきます。出世とか、金儲けとか、俗世間からまったく別の世界に住んでいる人たちを暖かく見守る、いや、類は友を呼ぶのでしょうか、辞書編集室の人たちを通じて、こうした生き様が素晴らしいと、さまざまなエピソードを交えて静かに語りかけます。

 映画は、主人公のマジメ君の生活と地道な辞書作りを描きながら静かに進みます。かぐやさんの登場シーンは、満月を背景に限りなく美しい。マジメ君が恋に落ちるのも当然です。しかも、恋の天才、寅さん(本物の猫ですが・・)もいるし、マドンナの叔母である大家さんの陰ながらの支援、同僚たちの優しいまなざしも心温まります。職場ぐるみであおいチャンを偵察に行く話や筆書きの封書式のラブレターのエピソードは最高です。思わず声を出して笑いました。会社のお局様も良い!!
 今はなき、美しい人間関係です。何事にも穏やかな加藤剛の元大学教授(多分)、その妻の八千草薫、一見ちゃらんぽらんな、「ダサイ」オダギリジョーも良い味を出しています。それにしても、八千草薫さんは、もう一昔前の「うちのホンカン」の時とあんまり変わらない凄さです。そして、あおいチャンも今までで一番良かったなあ。「天地明察」などいつも懐の深く、やさしい、男どもの理想の妻役を演じているような気がしますが、ラストシーンの「ミッチャンて、やっぱり面白い。」の台詞はなかなか効いています。

 最後に、辞書作りの大変さを世の中に知らしめた功績も大きいし、それに生涯をかけて従事する人達に感謝の意を捧げます。でも今では、コンピュータの活用で、もう少し作業は楽になっているのでしょうね、きっと。・・・原作の小説を読みたくなりました。 

2013年4月20日 (土)

東映動画アーカイブス

Img_10 フィギュア関係雑誌の特集号「東映動画アーカイブス」を入手しました。この雑誌は、日本で初めての長編アニメーションを製作した東映動画の初期作品のクレイモデル人形を紹介したものです。

 懐かしい「白蛇伝」や「少年猿飛佐助」そして、私の最もお気に入り、昭和37年公開の「アラビアンナイト シンドバットの冒険」などのクレイモデル人形が一同に会しているのです。

 クレイモデル人形とは、作画の参考のために作った、石膏製の人形です。よくディズニー映画では、こうした立体人形を使ったなどと紹介されていたのですが、東映動画でこんな手間を掛けていたとは思いませんでした。いつも、手抜きの安直な製作ぶりの映画に対しては「東映時代劇のようだ」などと皮肉っていましたが、ことアニメに関しては前言を撤回します。よくぞ、これだけの人形をつくり、今まで残っていたものです。東映動画から東映アニメーションに会社名が代わっているようですが、映画ファンとして、その作品の創造とその後の保存に対して改めて御礼を申し上げたい気持ちです。

 もっとも、記事を読むと、ほとんど作画の参考ではなく、宣伝に使われた(笑)とのことですが、これだけのクレイ人形を作ったという丁寧な製作態度や心意気は見事なものです。そして、多少人形は紛失しているようですが、いままで保存されていたことは、フィルム自体が散逸する日本映画界では本当に奇跡のような気がします。・・・実は、長年倉庫の片隅で忘れ去られていたのが、なんかの拍子に発見されたとか、有りそうな話ですが、まさか、そんなことはないですよね(笑)。

Img_0001_7 さて、私のお気に入りの「シンドバットの冒険」に登場するのサミール姫、悪大臣のトルファ大臣、そして伝説の島の魔神バドランも、しっかりと残っております。残念ながら、悪大臣の手先の蝙蝠ヘルバットは紛失しているようです。あの斑の卵から孵った、ヘルバットの邪悪さは特筆ものです。後年のレイ・ハリーハウゼンのシンドバット・シリーズに通じるものがあります。

 それにしても、こうして、クレイモデル人形の写真を眺めていると、当時のことがいろいろ思い出されます。実は「シンドバットの冒険」の宣伝記事や写真が掲載された子供雑誌が、田舎のいとこの家にあったのです。いとこ宅には、年に数回しか訪問しなかったのですが、行く度に、その雑誌を眺めていた記憶があります。
 当時は、本当に、入手できる情報がありませんでしたナア。関係するクレイ人形の一部をご覧ください。できれば、これらの人形をフィギュア化して発売して欲しいものですが、購買層が限定されているので、採算が合わないのでしょうネエ。

最強のふたり

Img_3  劇場で見損なった「最強のふたり」をやっとDVDで見ることが出来ました。それなりに面白いとは思いましたが、公開中の評判の高さほどの感動はありませんでした。なんか、あっさりしているな、というのが率直な感想です。少し期待を裏切られましたのが残念でしたので、以下、辛口で意見をいたします。

 まず、首以外は全身不随の身体障害者になった大富豪の人となりがよくわかりません。実話を基にしているせいか、表面だけのような描き方です。普通、遊びの事故で負傷、妻も病気で死亡などという、途方もない悲劇にあって、数年?で、多少、怒りっぽくても、あんなに普通に生きていることは奇跡です。どうもリアルな人間という受け止めができません。それとも、大富豪のなせる業なのでしょうか。

 加えて、求職に来る介護人達のひどさ、専門家の癖に、なんという無知蒙昧の輩でしょう。スラム街の黒人の大男のほうが余程ましと思わせる演出かもしれませんが、これも誇張が過ぎて、全く笑えません。笑いのネタにする感覚がひどすぎるゾ。

 こういう人物描写面では、文通の女性の描き方も凄い。この女性は、主人公の人生を変える重要な存在なのに、ほとんど写真と遠景だけの登場で、結局、「女は金か」と悪態をついてしまいます。消化不良もはなはだしいものです。願望を込めて、このエピソードは続編で描くのでしょう、きっと。

 黒人の方も、犯罪の町に育って多少の盗みもするが、本当は心優しい不良青年という設定は、実はステレオタイプのような気もしますし、大富豪とのからみは少しやりすぎ感があります。大富豪の方の主人公のいじめに我慢するこどものように少し痛々しい。というのは演出かな?。ほんと、笑うにも気を使いますぞ。?

 以上、辛口はこのへんにして、見所をいくつか、ピックアップしましょう。まずは、黒人の主人公が狙っていた、美人の秘書の正体は笑います。いかにもフランスらしい。ラストの卵も気に入りました。そして最大の見せ場は、誕生パーティのダンスですネエ。あれは良かった。しかも、そのほかの召使(こんな表現が似つかわしい。)達もいい味を出しています。最後に、あの絵のエピソードは前半、後半とも面白いが、あれは完全に詐欺ですなあ。しかし、なんであの黒人は仕事を辞める必要があったのでしょう?全くわかりません。ともかく、唐突に終わった感のあるこの映画の続編を期待しましょう。

2013年4月14日 (日)

ジャンゴ 繋がれざる者

「ジャンゴ 繋がれざる者」は、大傑作である、と断言します。なにしろ、165分もあるのに、全くその長さを感じさせないのですから、大したものです。アカデミー賞の脚本賞を獲ったのも頷けます。

Img_2 

 冒頭いきなり、オリジナルのジャンゴ、つまり「続荒野の用心棒」の主題歌が流れ、ジョン・ウエインご用達のおなじみ西部劇赤い題字がどんと出たところで、もう一発で心が鷲攫みされます。背景は、まったく西部劇らしからぬ凍てつく岩場です。その中を奴隷商人が鎖で数珠繋ぎにした奴隷達を歩かせています。素足で白い息も痛々しい有様です。CGを使わないリアルさを求めたワイオミングのロケ地だそうです。

 ここに登場するのが、クリストフ・ヴァルツ扮する歯医者で賞金稼ぎのキング・シュルツです。ドイツ人で、新大陸にやってきた、この男がなんともかっこいい。ヨーロッパのインテリジェンスを醸し出しながら、そのユーモアのある弁舌と隠し武器などを駆使し、賞金首を次々殺していくのです。この人物造型は見事です。前作のドイツ人に対する償いか、ともいえるような設定です。

 もちろんジャンゴ(DJANGO)は、フランコ・ネロから始まるマカロニ・ウエスタンの代表的な主人公の名前ですが、紹介の際にいちいち「Dを読まない」というのは、なんかのハリウッド映画のオマージュのような気がしますが、どうしてもその映画が思い出せません(笑)。ちなみに、もうひとつの有名な主人公は、クリント・イーストウッド主演3作に登場する「名無しの男」です。この辺も、タランティーノのこだわりなのでしょうか。

 この映画は、ともかく、奴隷制度の悲惨さをあますことなく伝えます。それも、社会派の映画のようにではなく、ドンパチの娯楽映画の中で、 見事に描きます。黒人たちが黙々と食事の用意をするシーン、白人の楽しみのような鞭打ち、全裸での拘置など、あらゆる場面で奴隷たちの悲しみを伝えます。そして、当時(?)の白人たちの鬼畜ぶりには目を覆います。まさにアメリカの恥部ですナア。しかも、わずか150年前ですから、やっぱり驚きです。やはり、銃と暴力と階層社会の国家なのですかネエ。まだまだ、有色人種に対する差別意識は根が深いのでしょうねエ。そういえば、お気楽SF映画「メンインブラック3」でも、十数年前は、エレベータや車に黒人が乗っていることすら、白人の白い目があったことを告発していますから。

 そして、もう一人、サミュエル・L・ジャクソン扮する奴隷頭のスティーブンの 悪役ぶりが際立っています。白い髪と眉毛でのメイクからして恐ろしいし、その狡猾さや洞察力の凄さには、ジャンゴの妻ブルームヒルダが涙を流すほど恐れるのも無理はありません。奴隷農場の皇帝を気取り、巴里に憧れる若き農場主のカルビン・キャンディに対しては、表面では忠実な道化役に徹しながら、陰では、その指南役として権限を振るい、同胞である黒人を差別し、いじめ、虐待するのです。今の時代にも居そうな、白人にすりよる一部の人間を見事に風刺しております。このスティーブが、馬に乗った黒人ジャンゴを見たときの驚きと、嫉妬、憎しみが手に取るように判ります。お見事です。

 最後に、印象深いエピソードをいくつか紹介します。いきなりの保安官殺しには驚き、KKK(クー・クラックス・クラン)団の覆面の目の穴が巧く見えないギャグや銃撃戦の血糊が東映やくざ映画調なのは笑います。それに、白人の農場主の姉を文字通りぶっ飛ばしたのは立派です。 

 いやあ、タランティーノの映画としても、あんまり残酷シーンのもろ出しもなかったので、本当に面白い作品でした。三ツ星ならぬ、★★★★★です。是非、ご覧ください。

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