ダークナイト再考
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ハリウッドの野球映画は面白い、ということを再確認させてくれる映画です。クリント・イーストウッドが、もう俳優はしないという節を曲げて出演しただけのことはあります。ともかく、快作です。スペクタクルだけでない映画の本当の醍醐味を味あわせてくれる作品です。娯楽作品の何たるかを再発見しました。おかげで、前日に見た「ホビット」の印象が消えてしまいましたゾ(笑)。
この映画の巧さは、なんともならない結末が近づき、おい、おい、どうなるんだと観客を惑わせたあげく、ベースボール映画お馴染みの手法で、鮮やかな逆転満塁ホームランをかっ飛ばすのです。その爽快感はどうです。そのシンプルで圧倒的な心地よさに酔うのです。厳しい現実に向き合う観客に、アメリカンドリームもあるんだという夢を見せてもくれます。上司にも一矢報えます(笑)。劇場から出ると、ホルスターから銃を抜くポーズをしたくなります。おもわず、「映画って、本当に面白いですね」と言いたくなりました。
それにしても、イーストウッドの出演映画は、ラストが鮮やかなイメージがあります。出世作の「荒野の用心棒」の鉄板のトリックから、「グラン・トリノ」のガンプレイなど、推理小説と同じで、あっと驚く幕切れが命です。そういう意味から言えば、原題の「カーブに難あり」とはなんと言うおしゃれなタイトルでしょう、しかも野球映画の真髄をついています。感心します。もっとも、邦題となると、いまの題名で立派と思います。これが、「トラブル・ウィズ・ザ・カーブ」なんていう題では涙が出ます。
クリント・イーストウッドの素晴らしい演技に加え、、「魔法にかけられて」以来、ご贔屓のエイミー・アダムスが娘役で頑張っています。少し、できすぎの娘ですし、過去のエピソードなんぞは、とってつけた感がしますが、そんなことは、わずかな瑕疵です。この後味のよさには、変えようもありません。ただ一点、死んだ妻(の写真)は、スペース・カウボーイの奥さん役のほうがよいぞ。(すみません、あの夫婦に昔憧れた古きよき時代を感じてしまうのです。)
最後に、このベースボールを題材にした作品は、「マネーボール」に対する、野球ファンであるクリント・イーストウッドのお答えのような気がします。かつて、リアリズムと称して悪漢におびえる保安官を描き、アカデミー賞を獲得した「真昼の決闘」に対して、敢然と敵を向かい撃つ保安官らの姿を描く活劇「リオ・ブラボー」を製作したハワード・ホークス監督のように。野球というのは、コンピュータじゃない、やってみるものだ、というアンチテーゼなのでしょう。
まだまだ、この作品の後味の良さに酔っています。もう、そろそろ劇場公開も終わるようですが、今流行のアメコミの映画よりも、もっと多くの人に見てもらいたい映画です。一方で、早くDVDが発売されないかな、と思う私がここにいます(笑)。
「ロード・オブ・ザ・リング」の前段の、新たな物語が始まりました。ピーター・ジャクソン監督をはじめ、おなじみのスタッフが揃い、再び、ホビットやトロル、魔法使いや魔王が棲む世界がスクリーンに出現します。
全3部作のうちの導入編ともいえる第一部であるにもかかわらず、上映時間は185分もあります。
ホビットの村や広い草原をただひたすら駆け抜けるドワーフの一行の光景、フロド、ガンダルフ、ガラドリエル(エルフの女王)など同じ役者が演じており、違和感はなく、懐かしくも、美しい世界が広がります。まさに、童話絵本のような景色はその美しさに息を呑みます。もっとも、それ以上に驚くのはあの高齢のクリストファー・リーが、再びサルマンを元気に演じていることです。これには感動します。
映像は、前作よりも、一層きめ細かに、多様になりましたが、前作で驚愕の経験している分、二番煎じにも感じられ、好き嫌いが分かれるところかもしれません。私としては、魔狼ワーグのデザインについて前作の姿に軍配を上げますが、全体として指輪世界を十分楽しむことができました。
そして、お話の流れは、またまたジャクソン監督らしく、悠揚迫らぬ運びです。前シリーズの第一作と同じ印象を受けますが、まだまだ始まったばかりです。まだ、その姿を見せていない、巨大なドラゴンの活躍(笑)に期待します。是非、長い目で、シリーズの今後を暖かく見守っていきましょう。
「ヱヴァンゲリヲン 新劇場版:Q」を劇場で見てきました。実は、この映画と同時上映される「巨神兵東京に現わる 劇場版」を見たかったことが、劇場に足を運んだ一番の理由でした。
この併映の映画は、わずか10分と7秒という超短編映画でして、この夏、東京において期間限定で開催された「館長庵野秀明 特撮博物館」という懐かしの特撮技術を集めたイベントで上映された作品です。巨神兵とは、あの宮崎駿の「風の谷のナウシカ」に登場する巨人であり、タイトルのとおり、ヱヴァンゲリヲンの総監督の庵野秀明とジブリがコラボし、巨神兵が東京に現れた火の7日間のシーンを実写で描いたものです。監督は、もちろん、平成ガメラシリーズで有名な樋口真嗣監督です。
この短編映画をイベントでわざわざ見てきた特撮マニアの友人が、「あれは凄い」というお勧めもあったことに加え、劇場公開されるとは思ってもいなかったので、今回は、相当楽しみにしてました。ちなみに、同時上映を言い出したのは、ジブリの鈴木敏夫プロデューサーらしくて、さすがに抜け目ないと言うか、それほどジブリが落ち目なのか(笑)。
さて、その評価と言うと、昔ながらの特撮という面では、最高の出来かもしれません。ただ、進歩したとはいえ、昭和の時代ではなく、CGで目の肥えた、現代の観客の眼から見たら、あまりに稚拙。なかなか頑張っている箇所も散見されるものの、ひとめでミニチュアと判る交通標識や人形。扇風機で倒れる陳腐さ、巨神兵のぎごちなさ。あの「アベンジャー」でさえ、リアルさは違和感はありません。あのハリウッド映画の水準が当たり前の時代です。樋口さん、大丈夫ですか? 本当に心配になります。
肝心の「ヱヴァンゲリヲン」の話ですが、昔のシリーズとは、タイトル(ヱとヲが違う)も筋も全く異なる、パラレルワールドです。もっとも、シンジのうじうじさと次々に配られる手札の胡散臭さは共通しています。実は、上映に併せてTVで放送された前作「同 :破」を見て、使徒のデザインのユニークさや美しさ、怪獣映画張りの迫力ある戦闘シーンに感心したのですが、新作は、まったくのコケオドシに終始し、見るべきシーンは何もありませんでした。
しかも、本来は、序・破・急の三部作のところ、「急」がクエッションの「Q」に代わり、何も判らないまま、最後に「つづく」となったのには、驚きを超えて呆れました。いつまで、善良なファンの期待を煽り続けるような、一種の詐欺ともいえる作品の製作を続けていくのでしょうか。いや、観客動員が見込まれる限り、延々と、手を変え、品を変え、無限に続くのでしょうネ。
久しぶりに、コメディ映画「大逆転」を見ました。何故か、突然、見たくなったのです。実は、この映画は、DVDを持っておらず、レンタルで再見しました。
監督は、ジョン・ランディスです。この監督さんの映画は、なぜか、いつも映画リズムが悪いような気がするのですが、この映画だけは、なかなか感じが良いのです。なにしろ、エディ・マーフィとジェレミー・リー・カーティスを人気俳優に押し上げた、コメディの傑作です。
筋は、大金持ちの兄弟の1ドルの賭けにより、人生を狂わされた二人の復讐劇とそれを助ける娼婦と執事のお話です。とはいっても、コメディですから、不意にどん底に落とされ、自殺寸前にまで追い詰められるシーンも、笑いを提供します。が、併せて人生の悲哀までも感じさせるところが、傑作というものでしょう。もっとも、そうした雰囲気をぶち壊すような、スイス娘やゴリラの着ぐるみなど、ドタバタ度も過激に展開します。
この映画の見所は、ジェレミー・リー・カーティスです。落ちぶれたダン・エイクロイドを優しく助ける、蓮っ葉ではあるが、気の良い娼婦の役柄です。
その彼女が商売用のカツラを取り、短髪の素顔が現れた瞬間は、まさに、新たなスターの誕生でした。しかも、娼婦役ですから、上半身をすっぱり脱いで、ずぶ濡れで失意のエイクロイドを優しく介抱するシーンは、見事です。この作品で英国アカデミー賞助演女優に選ばれたようですが、私も大いに推します。
なお、話は全く違いますが、ジェフリー・ディーヴァーの「リンカーン・ライム」シリーズの新たな映画化に際しては、美形の女警察官アメリア・サックス役に、是非、ジェレミー・リー・カーティスを推します。
ということで、遅まきながら、上記のように、DVDを購入しました。
ご存知、 007シリーズの最新作「スカイフォール」が公開されました。シリーズが開始されて50周年とか、まずはお喜びを申し上げます。その輝かしい歴史が信頼と安心を生んでいるのでしょう、劇場には、私を含めてシニアのお客様が多いような気がしました。
さて、主演のダニエル・クレイグも、三作目を迎え、貫禄もついてきました。しかも、彼は、007映画以外にもかなりの主演映画を無難にこなしており、あまりの人気絶頂のためイメージの固定化を嫌った、初代のショーン・コネリーのような悩みも無いようです。それにしても、クレイグが金髪のボンドに就任しようとしたときに巻き起こったという、ファンの強烈な反対は何だったのでしょう。いまや、すっかり肉体派のボンドに馴染んでいます。
今回も、冒頭の、タイトルまで延々と続くプロローグのアクション・シーンは、肉体と二輪車などを極限まで使った軽業芸と破壊の数々が凝縮し、本当に息を呑む迫力です。CGを使わず、とことん生身のスタントにこだわったそうです。アクション映画の本家の意地でしょう、お見事です。本当にこのスタントは凄い。しかも、破壊した列車の後方口に立ったときのクレイグの余裕の演技が、アクションの凄さをさらに際立たせます。巧い。
そして、やっぱり、いかにも007の世界を象徴するタイトルロールのデザインと音楽がうれしいものです。伝統のセンスと才能の積み重ねとも言えます。ここは美しいCGの絵をどっぷいと楽しみましょう。
活躍する舞台も、お約束にしたがって、世界の観光地を次々と移ります。上海、マカオなどなど、世界は狭くなっても、やはり豪華な映像です。007のロケ地ともなると、地元は多分大いに観光に盛り上がるのではないでしょうか。最近、中国が多いような、また日本にも来て欲しいものです。
ストーリーについて、一言で言えば、世代交代がテーマです。ネタばらしになるので控えますが、次回に向けて、MI6のメンバーが一新しますゾ。しかも、冷戦のない、情報化が進んだ現代社会において、スパイの存在意義を問う内容とも言えます。とはいえ、もちろん、Mに対する審問会にテロが乱入し、その存在は必要という結論になります(笑)。ただ、名銃ワルサーPPKも、もうそろそろ世代交代が必要です。あのアストン・マーティンを無残に破壊するのなら・・・。
ただ、かつてのMの部下による復讐劇であり、組織というよりは、Mと007が私的に防戦するという展開ですので、異色の007映画になっています。それにしても、タイトルのスカイフォールが、スコットランドの荒野にあるボンドの生家の屋敷名とは思いませんでした。これが一番の衝撃でした(笑)。
最後に、ここ3作のボンドガールが、私の好みでないのが困ります。なんか、美人じゃないゾ。次回は、ダニエラ・ビアンキの再来を期待しています。もっとも、女をあんなに使い捨てるボンドの非情さでは、ちょっと困りますナ。脚本の猛省を促したい気もします。
「コマンド戦略」については、かつて当ブログ(2007.9.23)で、明朗痛快戦争映画として紹介したことがありますが、このたび、やっとDVD化が実現しました。VHSは発売されていたのですから、何故、DVD化がこれほど遅くなってきたのか、その理由は判然としませんが、ともあれ、この映画のファンとしては、うれしい限りです。
早速、再見しましたが、スポーツ感覚の戦争映画の楽しさは、いささかも変わりません。アメリカ軍のならず者達の寄せ集めと、精鋭を誇るカナダ兵の混成部隊のお話です。後年は、悪魔の旅団として、敵から恐れられたコマンド部隊の草創期の物語です。
監督は、アンドリュー・マクラグランです。ジョン・フォードの弟子で、西部劇を中心に男っぽさを売りにした映画で活躍しました。この映画でも、「黄色いリボン」などの酒場での殴りあい、「静かなる男」に通じるアイルランドへの郷愁、加えて、ドイツ兵をアパッチに見立てたような戦闘シーンは、まさにジョン・フォード直伝の男の活劇です。特に、格闘技の達人のカナダ兵の軍曹は出色です。未見の方は、是非、安心して単純に活劇を楽しんでください。
もっとも、この監督には悪い癖があります。それは、娯楽作品なのに、必ず、悲しいエピソードをひとつ描くのです。例えば、西部劇の「シェナンドー河」など、途中アレだけ活劇として面白いのに、現実の悲哀を描いたために、最後には後味の悪い映画になるのです。この映画でも、何故、ムードメーカーのピーコックやサーカス男、さらにカナダの将校が戦死するのでしょう。戦争の悲惨さを描いたつもりなのでしょうが、あんまり演出の効果としては感心しません。悪い癖です。
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