のぼうの城
「のぼうの城」は、近年、稀に見る製作態度の立派な邦画であり、実に楽しく面白い時代劇でした。
この映画の魅力は、なにより、出演者のキャスティングです。まず、主演の野村萬斎の「のぼう様」には恐れ入りました。実は、この人の評判の「陰陽師」などの二枚目演技はあんまり買ってはいなかったのですが、今回の作品は、まさに、その魅力を120%発揮する、はまり役となっています。開幕後すぐに、血の気の多い武将同士のこぶしの戯れのとばっちりを食った、「でく」のぼう様の珍妙な演技が、私をこの映画の世界に引き込み、さらに、敵方使者との応対や戦闘の注進などの様々なシーンでその喜劇的才能をいかんなく見せつけてくれました。もう笑いが止まりません。
そして、極め付けのクライマックスの船上の卑猥な田楽踊りは、現代最高の狂言師ならでは、至芸であり、まさに圧巻です。古典芸能の実力を肌で感じます。(某歌舞伎役者とは違うなあ。)
そのほか、おなじみ佐藤浩市の武将ぶり、成宮寛貴の才気溢れる若武者ぶり、さらに、見終わった後でも日頃の顔が思い出せないほど、官僚石田三成を熱演した上地雄輔の変身ぶりなども、詳しく紹介したいのですが、それ以上に、その四角くごつい体躯をいかして、映画ならではの、豪傑ぶりを見せつけた、山口智充の熱演を評価したい。バイキングのような甲冑を身にまとい、片手で敵方を串刺しにする怪力無双ぶりは見事。これぞ、ホラ話の中の映画的なリアリティですゾ。
加えて、北海道の甲子園20個分の広大なブロッコリー畑に大規模なセットを本当に作って、CGの技術を駆使しながらも、本物らしさを追求し、作り上げた合戦シーンの迫力はただならぬものを感じます。忍の城全体を眺める絵づくりの素晴らしさは、邦画の限界基準を軽く超え、今後の作品のつくり方の方向性を示しています。この作品を思えば、最近のCG時代劇のなんと軽く薄っぺらなことか、と言わざるを得ません。
小道具や衣装もいい。そして、その汚し具合も見事です。主だった武将の甲冑は、それぞれデザインが考え抜かれています。「蜘蛛ノ巣城」などの往年の黒澤時代劇を髣髴させる、というのは言いすぎでしょうか。(田植え音頭は「七人の侍」を連想させますが、百姓の地位はこっちが高いゾ(笑))まあ、樋口監督の「隠し砦の三悪人」のリメイクも全く無駄ではなかったのでしょう(笑)。しかも、あの平成ガメラが日本の特撮映画を革新したように、この作品は、戦国時代劇を確実に進歩させる(?)というのは、やっぱり、ほめすぎかな?
それにしても、私も読んでいた和田竜の小説「のぼうの城」が、実は、もともと映画「忍の城」の脚本だったもので、映画化の実現を図るために、脚本を後から小説化し、ベストセラーになったものだったとは知りませんでした。こうした映画化に向けた遠大なる作戦も凄いし、結果、それを実現したことも驚きです。しかも、当初の犬童一心監督、樋口真嗣特撮監督という製作陣が、結局、2人の共同監督になったこと、そして、それが実に巧く結果に結びついたことなど、この作品の製作裏話も興味深々です。今後、間違いなく発売されるDVDのメイキングに期待したいところです。実は、既に、上の700円のパンフレットと合わせて、オフィシャルブック1500円も購入してしまいました。結構、この映画は物入りです(笑)。
未見の方は、是非、劇場に足をお運びください。この映画は、傑作です。日頃の憂さを忘れて、大笑いできることはまず保障します。
最後に、唯一、気になる点があります。堤防の決壊シーンで、撮影には本物の水を大量に使用したということですが、映像では、まだまだ波頭の水滴が大きく、チャチに見えるところがあります。わずかですが、昔ながらの日本特撮の悪癖を引きずっているように思えます。是非、DVD化に際しては、CGで修正をお願いします。
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たかとんびさん、こんにちは。
こちらでは、はじめましてですが、4/30付拙サイトの更新で、先ごろご了解いただいた拙日誌からの直リンクに、こちらの頁を拝借したので、報告とお礼に参上しました。
「結構、この映画は物入りです(笑)。」とお書きの惚れ込みようが、具体的で分かりやすく改めて拝読して感心至極でした(拍手)。“ホラ話の中の映画的なリアリティ”って、ホント大事ですよねー。まさしくここんとこが成否を分けるような気が致します。
ご指摘の田楽踊りの見事さ、ちょうど 『盆踊り 乱交の民俗学』(作品社・下川耿史 著)を読んだところだったので、一層興味深い作品だったことを思い出しました。
どうもありがとうございました。
投稿: ヤマ | 2013年4月29日 (月) 23時10分