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2012年11月24日 (土)

ロックアウト

Img_0005_new  「ロックアウト」は、凶悪犯500人を冷凍冬眠させた宇宙衛星刑務所を舞台に、暴動に巻き込まれた大統領の娘を救出するという、設定だけ聞けば、どこかであったようなお話ながら、血肉沸くような痛快作品になる筈でした。
 しかし、残念ながら、冒頭の地上でのシーンから興ざめな場面の連続です。まず、主人公の魅力がまったくわかりません。尋問で殴られても、平気の平左というタフぶりという設定も全く板についていません。苦しいときこそ、魅力的な007的(?)なジョークも、ただのへらず口で感心しません。しかも、地上でのオートバイのような乗り物でのアクションシーンなどは、CGの金が足りないのでしょうねえ、筆で絵をなぞったような、ぼやけた映像の連続です。大画面で見る観客に失礼というものです。まったく愛想が尽きました。

 その後も、とても凄腕とは思えない主人公を、単身、敵中に潜入させるなど、理屈に合わない展開です。もっとも、この人選については、ある布石があったことが最後に明かされますので、それは納得しますが、この主人公の人物設定がなにより中途半端です。口の悪さと鈍感さが武器なのでしょうか。

 また、500人の凶悪犯の暴動も、実質は、十数人の幹部(いつのまに?)が応対するだけで、ほとんどの囚人が広場でおとなしく?歓談をしているのです。あらゆる凶悪犯がそれぞれ度派手に暴れて欲しかった、というのは私だけでしょうか。しかも、ジョージ・クルーニー似のリーダー役と、デビュー当時のロバート・デ・ニーロ風の頭のおかしい弟のコンビは、もう、フロム・ダスク・ティルドーンそっくりです。結局、最後はいかれた弟の行動で自滅しますし、シークレットサービスの黒人の大男は、ただただ事態を悪化させるだけであり、主人公も、いきなり出会い頭で大統領の娘に殴り倒されるなど、もう次々と馬鹿げた展開が続きます。こういった映画の定番のヒーローと勝気なヒロインとのやりとりも、昔のハリウッド映画を参考にして、もう少し気の利いた台詞がほしいものです。

 もう手に汗を握ることもなく、あまりの消化不良なアクションに唖然となって、宇宙衛星でのお話は終わります。それにしても、いくらなんでも宇宙服で大気圏突入を突破したのは、二の句が告げませんゾ。まあ、唯一の救いは、高慢な大統領の娘が金髪を切られてザンギリの黒い短髪となって、やっと可愛く見える、という演出でしょうか。「96時間」の娘役の女優さんとは思いませんでした。

 「ニューヨーク1997」を彷彿させるような、私の好みの設定に免じて、パンフレットを購入しました。思えば、NY1997も、片目のスネークの格好だけで、潜入後は、ぜんぜん活躍しなかったような気もします。期待が大きかったせいかもしれませんが、やや辛口になりました。あまり期待をせずに、ベッソン製作の新人監督の作品を気楽にご覧ください。

2012年11月 4日 (日)

のぼうの城

Photo 「のぼうの城」は、近年、稀に見る製作態度の立派な邦画であり、実に楽しく面白い時代劇でした。

 この映画の魅力は、なにより、出演者のキャスティングです。まず、主演の野村萬斎の「のぼう様」には恐れ入りました。実は、この人の評判の「陰陽師」などの二枚目演技はあんまり買ってはいなかったのですが、今回の作品は、まさに、その魅力を120%発揮する、はまり役となっています。開幕後すぐに、血の気の多い武将同士のこぶしの戯れのとばっちりを食った、「でく」のぼう様の珍妙な演技が、私をこの映画の世界に引き込み、さらに、敵方使者との応対や戦闘の注進などの様々なシーンでその喜劇的才能をいかんなく見せつけてくれました。もう笑いが止まりません。
 そして、極め付けのクライマックスの船上の卑猥な田楽踊りは、現代最高の狂言師ならでは、至芸であり、まさに圧巻です。古典芸能の実力を肌で感じます。(某歌舞伎役者とは違うなあ。)
 そのほか、おなじみ佐藤浩市の武将ぶり、成宮寛貴の才気溢れる若武者ぶり、さらに、見終わった後でも日頃の顔が思い出せないほど、官僚石田三成を熱演した上地雄輔の変身ぶりなども、詳しく紹介したいのですが、それ以上に、その四角くごつい体躯をいかして、映画ならではの、豪傑ぶりを見せつけた、山口智充の熱演を評価したい。バイキングのような甲冑を身にまとい、片手で敵方を串刺しにする怪力無双ぶりは見事。これぞ、ホラ話の中の映画的なリアリティですゾ。

 加えて、北海道の甲子園20個分の広大なブロッコリー畑に大規模なセットを本当に作って、CGの技術を駆使しながらも、本物らしさを追求し、作り上げた合戦シーンの迫力はただならぬものを感じます。忍の城全体を眺める絵づくりの素晴らしさは、邦画の限界基準を軽く超え、今後の作品のつくり方の方向性を示しています。この作品を思えば、最近のCG時代劇のなんと軽く薄っぺらなことか、と言わざるを得ません。 
 小道具や衣装もいい。そして、その汚し具合も見事です。主だった武将の甲冑は、それぞれデザインが考え抜かれています。「蜘蛛ノ巣城」などの往年の黒澤時代劇を髣髴させる、というのは言いすぎでしょうか。(田植え音頭は「七人の侍」を連想させますが、百姓の地位はこっちが高いゾ(笑))まあ、樋口監督の「隠し砦の三悪人」のリメイクも全く無駄ではなかったのでしょう(笑)。しかも、あの平成ガメラが日本の特撮映画を革新したように、この作品は、戦国時代劇を確実に進歩させる(?)というのは、やっぱり、ほめすぎかな?

 それにしても、私も読んでいた和田竜の小説「のぼうの城」が、実は、もともと映画「忍の城」の脚本だったもので、映画化の実現を図るために、脚本を後から小説化し、ベストセラーになったものだったとは知りませんでした。こうした映画化に向けた遠大なる作戦も凄いし、結果、それを実現したことも驚きです。しかも、当初の犬童一心監督、樋口真嗣特撮監督という製作陣が、結局、2人の共同監督になったこと、そして、それが実に巧く結果に結びついたことなど、この作品の製作裏話も興味深々です。今後、間違いなく発売されるDVDのメイキングに期待したいところです。実は、既に、上の700円のパンフレットと合わせて、オフィシャルブック1500円も購入してしまいました。結構、この映画は物入りです(笑)。

 未見の方は、是非、劇場に足をお運びください。この映画は、傑作です。日頃の憂さを忘れて、大笑いできることはまず保障します。

 最後に、唯一、気になる点があります。堤防の決壊シーンで、撮影には本物の水を大量に使用したということですが、映像では、まだまだ波頭の水滴が大きく、チャチに見えるところがあります。わずかですが、昔ながらの日本特撮の悪癖を引きずっているように思えます。是非、DVD化に際しては、CGで修正をお願いします。 

 

2012年11月 3日 (土)

リンカーン/秘密の書

Img_new  「リンカーン/秘密の書」とは、あのアメリカ大統領のエイブラハム・リンカーンが、実は、バンパイア・ハンターだったと言う、奇想天外な物語です。どうして、こんな話の映画を撮るのか、はなはだ疑問だったのですが、左の600円のパンフレットによると、原作の小説が存在しており、しかも大ヒットしているとのこと、さらに、その作者がシナリオも担当しているというのですから、驚きながらもなんとなく理解できました。アメリカ人の最も好きな大統領と吸血鬼の組み合わせです。良く考えると、アメリカでヒットする要素は十分と思えます。
 それにしても、小説化のきっかけは、アメリカの負の象徴である奴隷制度は、実はアメリカ人にあらざる吸血鬼が、黒人の血を飲むために合法的に人身売買を始めたもので、南北戦争も、南部の吸血鬼を滅ぼすためのものだった、というアイディアだそうです。今のアメリカ白人の気分に受けそうな設定です。
 もちろん、その前提には、アメリカ人の吸血鬼好きという嗜好があります。これまで、ドラキュラ映画をはじめ、一体どのくらいの数の吸血鬼映画があるのでしょう。しかも、最近は、恐怖の対象から、恋愛物に変化して登場する有様です。いやはや驚きです。

 さて、注目のリンカーン役は、一種のスーパーマン役者のような体躯の若者です。くるくる回す斧使いも含めて頑張っています。妻のメアリー役の女優さんも輝いています。貧しい農家から大統領になる過程はすっ飛ばかしていますが、当時の町並みの佇まいや食料品店主などの雰囲気はなかなか納得させます。このあたりは、製作のティム・バートンの力と勝手に睨んでいます。とりわけ、リンカーの容貌に関して言えば、若い頃のふっくら感から晩年の見慣れた痩せた肖像そっくりに変貌させるメイクアップ技術には、感心を通り越して本当に驚きます。日本の映画界も見習って欲しいものです。邦画のふけ顔メイクは全く自然に見えません。

 今回の映画では、不死と貴種の象徴として、「アダム」という吸血鬼の頭領が登場します。なんと5千年の命をながらえ、エジプトのファラオの圧制、ローマ帝国のキリスト教信者虐殺などの記憶まで有しています。年齢的には、これまでの吸血鬼映画の中でも、最長ではないでしょうか。演じているのは、ルーファス・シーウェルというイギリス人の舞台俳優で、知性と冷酷さが良く出ています。なんとなく、仲代達矢の若い頃の色悪な雰囲気に似ています。ほめ過ぎか?
 側近の女吸血鬼もなかなかの悪女ぶりです。エリン・ワッソンというスーパーモデルだそうです。覚えておきましょう。

 そのほか、映像的は、土ぼこりで埃っぽい画面など全体的にピントが甘い画像だったことが残念だったことに加え、リンカーンと吸血鬼が馬上で格闘する馬の大暴走シーンや崩れ落ちる鉄橋での機関車の綱渡り、あるいは斧の一撃で大木を粉砕するエピソードなど、あまりにも空想的すぎてリアリティが全くありません。この辺は、絵空事アクション満載の「ウォンテット」がヒットしてしまった監督さんの勘違い、思い違いのなせる業と思います。

 最後に、今回の吸血鬼は、十字架も恐れず、日焼け止め薬で昼間でも活動できますが、狼男と同じく銀に弱いというのが新たな趣向です。

 なお、ストーリー自体には、ここでは言及いたしません。タイトルどおりの内容です(笑)。

 余談ですが、現代のワシントンのモニュメントから過去に移行する冒頭の場面は、黒澤明の「蜘蛛ノ巣城」へのオマージュでしょうか、ちょっと心が動きましたぞ。○ひとつ。

 

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