アガサ・クリスティ
アガサ・クリスティは、ミステリーの女王という敬称がふさわしい作家です。私も市川監督と同様に大ファンです。空前絶後の大トリックの発明、しかも一人の人間がいくつも生み出しているのですから、信じられないことです。また、小トリックの組み合わせや読者を心地よく惑わせる仕掛けも見事と言う以外はありません。アガサ・クリスティの本を初めて読んでいるときの幸せは例えようも無いものでした。もっとも、現在では文庫版で全作品が揃っている時代ですので考えられないかもしれませんが、かつては、アガサ黄金期の名作といえども絶版となっており、なかなか読むこともできず、古本屋で早川書房のポケットミステリを漁ったものでした。例えば「白昼の悪魔」は、洋書を買いました。しかし、いくらクリスティの文章が平易といわれていても、やはり英語ではさっぱり読めませんでした。(笑)その後、ハードカバーの単行本が再販されて、やっと堪能したのです。
この傑作を映画化したのが、「地中海殺人事件」です。エルキュール・ポアロが原作とは似ても似つかない大男のピーター・ユスチノフですが、雰囲気がなかなかよく、面白く出来ています。 前作の「ナイル殺人事件」も同様です。この映画は「ナイルに死す」という原作の映画化です。偶然にも、この原作もハードカバーの単行本で出ています。この2作は、小トリックの組み合わせの妙という点で共通した傑作です。
クリスティの映画化は、女王が存命中のときは、なかなか許可されず、小説からすこし結末などを捻った舞台劇の映画化が数本あるだけです。 ビリー・ワイルダーの「情婦」。これは、出演者も大スター揃いの傑作です。ルネ・クレールの「そして誰もいなくなった」は、原作に忠実で、その雰囲気をよく伝えています。 この原作を初めて読んだときの衝撃をいまでも思い出します。読者にとっては至福のときでした。こんな設定を考えついただけでも勲章モノです。それにしても、クリスティによる意外な犯人像の創造には、誠に凄まじいものがあります。いずれも推理小説史上のエポックメーキングな犯人像となっています。例えば、著者本人=犯人、登場人物全員=犯人など、絶句します。童謡殺人などの舞台装置も楽しいものです。
オールスターで作られた豪華な映画「オリエント殺人事件」には、原作どおりのエルキュール・ポアロが登場します。良く作っていますが、何故か作為的で、私は、ユスティノフ・ポアロの方が好きなのです。
ところで、NHKでポアロシリーズが放映されていましたが、私は見ていません。ポアロ役者が原作の味を出して世間の評判(?)も良かったようですが、ソフトタッチの画像のせいか、イマイチ見る気が起こりません。その世界に入っていけないのです。いつの日か、見てみることにしましょう。
おまけとして、私のお勧めの作品(小説)を、順不同、記憶の限りでご紹介します。いずれもポケミス版なのですが、娘などは「読みにくい」と言って文庫ファンです。オールドファンとしては、世の無情を痛感します(笑)。
「オリエント急行殺人事件」「そして誰もいなくなった」「アクロイド殺し」「ABC殺人事件」「ナイルに死す」「白昼の悪魔」「愛国殺人」「満潮に乗って」「ポアロのクリスマス」「予告殺人」「ゼロ時間へ」「杉の棺」など。
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