観るか、観ないか、思い悩んでいた映画があります。黒澤明の傑作をリメイクした「椿三十郎」です。そして、ついに、昨夜、意を決して観てきました。
その感想は、うーん、何と言ったら、よいのでしょう。
まず、色がとてもきれいだ、ということです。彩度を落としたということですが、落ち着いた色合いであり、黒澤がこだわったものの、当時は、技術的に困難だった、椿の色も鮮やかに写されています。◎
次に、構図がほとんどオリジナルと同じなのです。セットもよく似ています。モノクロの美術の良さが、カラーになってもそれほど遜色はしません。逆に、ああ、こんな色だったかとの感慨さえ覚えました。◎
ただ、衣装については、三十郎の着物が気に入りません。お調子者が着るような小豆色にするにしても、もっと薄汚れているべきです。まるで洗い立て新品のようです。(監督の意向らしい)髪型も半人前の前髪のようでよろしくない。ただ、着物の紋が前作と同じなのには納得した。△
脚本は、オリジナルのままです。三十郎以外の役は、出演者がよく頑張りました。旧作には、少ないアップも効果的に入れて、表情や役者がよくわかります。特に、押し入れ侍は良かった。前作は、途中まで小林桂樹とはわかりませんでした。それに加えて、三悪人の役者がよかった。前作以上にコミカルにそれぞれ芸を競っていて面白い。◎
前作の目玉である殺陣は、CGを使わないことを聞いて以来、まったく期待していませんでしたし、結果もそのとおりでした。アップで誤魔化して、殺陣を勉強した気配がありません。前作の凄みはまったくありません。第一、解説してどうすんだ。「再生」でもう一度?冗談でしょう。×
最大のミスが主演の織田裕二です。あの世界陸上の総合司会の時のように、舞い上がって、ボルテージだけが上がり、空回りをしています。三船用の台詞をキャラが違う織田がしゃべるのですから、聞き苦しくてたまりませんでした。ここだけは台詞を練り直すべきだったのです。×
いや、これは、織田のせいではないのでしょう。 いかに、三船敏郎という役者が偉大だったかということです。単に、黒澤の演出の効果だけではありません。三船が居たからできたということを改めて思います。何しろ、世界のミフネですから。
結論として、この映画をリメイク映画という言うのは、いかがなものか、と思います。まったく同じ脚本、同じセット、同じ構図では、「模写」であり、コピーであり、良く言えば、カラー化です。その意味では、よく出来ていましたし、旧作が無ければ、面白く見えたのでしょう。結構、劇場内で笑い声がしていました。
しかし、自らの創作活動を志す映画監督たる人が、どうしてこんな人真似のような映画を作ったのでしょう。よくわかりません。実は、黒澤監督の熱狂的なファンで、黒澤が心残りだったカラー化を実現したかった?とか、黒澤と同じ撮影を習作として勉強したかった?。あるいは、若い人に本物の黒澤映画を見てもらいたくて、その入門映画として、カラーで言葉のわかりやすい映画を作った?・・・もしそうなら、私も応援します。・・・まさか、紅白交じりの椿をやりたかったわけではないでしょうね。(笑)
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