奇想の作家、山田風太郎の小説を映画化した「魔界転生」という作品があります。「いきなり、時代劇かよ。」という疑問もあろうかと思いますが、この映画は、天草四郎の妖術で地獄から甦った(魔界転生した)剣豪達が柳生十兵衛と戦うストーリーで、いわば立派なSF映画なのです。第一、それらの剣豪達は皆怪物化しており、一種のモンスター映画ともいえます。
今回の話題は、前回までのオールスター映画というネタからの連想です。原作の小説「魔界転生(もともとは「おぼろ忍法帖」のタイトルを角川書店版から改名したもの)」は、生きる時代の違う剣豪が一堂に会すれば、誰が一番強いか、という剣豪オールスターの物語です。「もし、戦えば」というファンの夢を小説にしたものともいえます。
宮本武蔵、柳生兵庫、柳生宗矩、荒木又右衛門、宝蔵院胤舜、田宮坊太郎など、有名な剣豪が登場します。(何人知っていますか?)主人公の柳生十兵衛は、各剣豪の強さを計る、狂言回しです。小説自体は、甲賀忍法帖、風来忍法帖と並ぶ大傑作と思います。
余談ですが、忍術を忍法という言葉に代えたほど一世を風靡した「風太郎忍法帖」シリーズですので、映画や漫画などに大きな影響を与えており、いまなお、漫画「バジリスク」などの原作として使われています。特に甲賀忍法帖は、古くは、不死の忍者「薬師寺天膳」が「伊賀の影丸」に登場する「天野邪鬼」等に、また、小山春夫作の「真田十勇士サスケ」の敵役「クラゲ」にも大きな影響を与えています。特に、現在、刊行中の「小山春夫選集」へのズバリ「甲賀忍法帖」の復刻を首を長くして待ち望んでいます。(アップルBOXクリエート、猫目書房さん、よろしく。)
さて、映画の方は、当初予定していた五社英雄監督が、不祥事で頓挫、代わりに深作欣二監督が撮っています。個人的には、このことが痛恨の極みです。三匹の侍を世に出し、「御用金」、傑作「人斬り」や「雲霧仁左衛門」など、時代劇に強い思い入れのある五社監督に是非映画化してほしかったのです。あの凄まじい殺陣と血糊、あくの強い演出とケレン、どろどろとした雰囲気の「魔界転生」を見たかったのですが・・・。
しかし、深作演出では、時代劇にそれほどの思いもなさそうで、様式美もなく、凝ったセットも見えず、ストーリーも、殺陣も興ざめでした。唯一の救いは、若山富三郎が演じる、魔界転生した柳生宗矩です。いわゆる「化け猫」のような仕草や幽鬼のような扮装、そして、ホントに舌を巻くほど上手い殺陣、一度、ご覧ください。紅蓮の炎を背景に、梵字に目をそむける一瞬に・・・。絶品です。
そういえば、封切当時、天草四郎の台詞が有名になりましたが・・・・。
また、最近、「魔界転生」が再び映画化されました。
残念ながら、CG技術だけが進歩し、軟弱な殺陣と時代劇に似合わない出演者だけが目立った作品です。まあ、相当な時間の余裕があれば、ご覧ください。
しかし、山田風太郎作品の映画化は、「伊賀忍法帖」や「SHINOBI」に代表されるように、また、エロチックさを売り物の東映ビデオ映画などを見ても、なかなか作品に恵まれません。もっとも、奇想天外な小説は、映像化自体、困難なものかもしれません。原作を改竄せず、忠実に、映像化した映画を是非見たいものです。特に、「甲賀忍法帖」の伊賀・甲賀の各十忍の怪物たちを。さらに言えば、不死の忍者の復活の場面を・・・。(余談ですが、小説の名シーンです。)
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